味覚の要素と“におい”の仕組みの謎

前回の記事では、味覚の五味、味覚変革物質、その他の味の要素についてお話しました。

<味覚の種類と料理のおいしさの謎>http://wp.me/p50ahn-16B

今回は、さらに味を追求した表現や美味しさを語る上で欠かせない嗅覚についてもお話しします。

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複雑なおいしさの表現

コク

コクはそれぞれの味の濃さや濃度につながる感覚とも言えます。

十分な濃度感を与え、美味しいと感じさせる味があるのがコクと言うことになるでしょう。

商品や名前を比較すると、コクがあると呼ばれる料理などは、他の料理に比べ1~5個ほど材料が多っかたりするため、多くの食材・調味料を使うことが「コク」の条件にも当てはまるでしょう。つまり「味の総和」です。

その他、コクとは、甘みやうま味、苦みなどに比べ、酸味が抑えられている味が多いです。味の余韻が大切になります。

コクとは複合的な味の重なりによって得られる、上質で深みのある味わいを指し、後味の広がり・余韻がコクを感じさせるために大切な条件になります。甘さや辛さと言った単純な味ではなく、いろいろな味のハーモニーによって作り出されるのですね。

コクの要因とその解釈

  1. お茶やにがりなどの、わずかな苦味や渋みなどが、甘味やうま味に混じることで「奥行き」「広がり」を増し、味を複雑にしてコクとして感じられる。
  2. 味の強さと持続時間に応じてコクを出したり、強さが変わる。
  3. 油を加える、片栗粉などでとろみを出すことでコクを感じる。
  4. 無意識下で食品に含まれる微粒子や脂質などを舌で感知することでコクを出す。
  5. 第1層に甘味、うま味、脂質の味がコクの核としてあり、第2層に香りやテクスチャー、第3層に食べる人側の要因、が加わることで「多層構造」がコクを出す。

以上、コクには味の複雑性や持続性、食感を含め、たくさんの要素が関係していて、単独ではなく複数の条件が合わさり、コクを形成されていると考えられています。

ひとつひとつの味は濃くなくても、うまくバランスよく合わされば、濃い味になりコクが出ます。逆に、味が濃くても何かひとつの味だけが強く、その他の味がしないような場合はコクがない。と言えます。

キレ

キレはコクと相対する味わいとして表現されることもあります。

コクが持続性を持った味わいなのに対し、キレは最初に感じた強い味が短時間ですっきりと消え、その後に爽快感を感じさせる味わいを指すことが多いです。「後味がどれだけ早く消えているかでわかる味」のことをキレと呼びます。

ただ、「コクがあるのにキレがある」という言葉もあるように、コクもキレも同時に満たすことも可能で、必ずしも反対の表現ではない味わいと考えられます。

“キレ”は、「食品」より「飲み物」の場合に表現されることが多く、ビールやコーヒーなど、持続時間が短いものはキレを感じます。このような時間的要素以外に、その食品の味の要素自体が際立っている場合も、キレと呼ばれます。“のどごし”の味や感覚も、キレを感じるための重要な要素の一つだと考えられます。

のどごし

味蕾の約3分の2は舌に存在しますが、残りの約3分の1は舌以外の場所(口の奥からのどにかけて)に存在します。つまり、のどごしは、飲み込む部位で感じることで、舌と同様に、味覚の判断に関係すると考えられます。

ビールなどが特に“のどごし”も重要な味覚の要素として扱われ、喉の奥の味蕾が感じる味覚が関係している可能性もあると考えられます。

“のどごし”もまた、味の「コク」や「キレ」とも関連して呼ばれるため、コクやキレの感覚も、のど越しのように、舌以外にある味蕾との関係性があるのではないかと予想されます。

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においを感じる仕組み

嗅覚も味に大きく影響します。風邪で鼻が詰まったり、鼻をつまんで、香りの情報を遮断するだけで、味の感じ方は変わりますよね。特にコーヒーは、「香りが命」と言われるくらい、「香り」が重要な要素となっています。

こちらを見てください。食事をした時に、脳が反応する部分です。(赤と黄色の部分が反応している場所です)

<触覚>

IMAG1612[1]

<味覚>

IMAG1611[1]

<嗅覚>

IMAG1613[1]

この図からでもわかる通り、脳が感じるにおいの部分はたくさんあり、嗅覚がいかに重要な要素かということがわかります。

嗅覚は、他の感覚に比べて研究するのは難しいと言われていますが、その原因は、

  • 香りや匂いの種類が数万種類ともいわれるため、
  • 「5味」のように、基本となる匂いを分類することができないため、

「○○のような香り」という形式の比喩で表されることが多いです。さらに、嗅覚の感覚は、空気中のわずかな匂い物質にも反応して、感じますし、匂いの感じ方に個人差が大きく、人によって感じ方が全く変わってきます。

嗅覚は味覚よりもっと未知の部分が多いのです。

嗅覚のメカニズム

嗅覚は、鼻の奥で感じます。鼻の穴の奥に、鼻腔とよばれる空間が広がり、その上の部分で、匂いを感知するための器官、嗅覚器が存在します。

味覚と同じように、嗅覚にも好き嫌いがあり、良い匂い(=芳香、香気、香り)は快感を覚えて引きつけられますが、悪い匂い(=悪臭、臭気、臭い)に対しては不快感を覚えます。

そして、匂いを感じるケースには、大きく二通りあり、一つは鼻からの呼吸によって、空気中の匂い物質を感知する場合。これは嫌な匂いから危険をいち早く判断するためや、美味しそうな匂いからその在処を探しだすために有利になります。

一部の動物がコミュニケーションに用いているフェロモンも、一種の匂い物質として働きます。嗅覚も、味覚と同じように、生物の進化の段階で身につけた、生き抜くためのシステムだと考えられます。

もう一つの匂いを感じるケースは、食べ物や飲み物などを口に入れた時に、口の側から匂い物質を感知する場合です。

鼻の中(鼻腔)と口の中(口腔)は、それぞれの奥にあたる咽頭の部分でつながっているため、食べ物に含まれている匂い成分が、口の中で気体となって鼻腔側に移動し、そこで匂いを感じさせます。

一般的には、食べる前に食べ物自体から立ちのぼって感じられる匂いと、食べた後で口の中から鼻に到達する匂いと2つの感じ方があります。

この匂いの感覚と、味覚からの味の情報、触覚が合わさって、統合的な「風味」が形作られます。

人は食べ物の味を認識・記憶する過程において、この「風味」が重要であり、食べる時に匂いを遮断しただけでも、その味がどの食べ物のものかをほとんど認識できなくなります。嗅覚は「風味」の一部として、食べ物の嗜好性に大きく影響しているのです。

匂い物質

匂い物質はきわめて多く、化学構造も多様で、共通した立体構造は認められません。

しかし、唯一共通する性質として、常温や体温付近の温度で、ごく微量でも気体になるということが挙げられます。つまり元々、常温で気体として存在するもの、または、揮発性がある化合物(匂いを含む物質)が匂いとして感じることになります。

ちなみに人を含めた陸上の動物では、匂い物質は空気に混じった状態で嗅覚器に到達する必要がありますが、魚類などの場合、匂い物質は水に溶けた形で作用する必要があります。

嗅覚の個人差

嗅覚は、五感の中でも特に個人差が大きい感覚だと言われ、嗅覚が鋭い人や鈍い人が存在しますが、たとえ鋭い人でもそれぞれの匂い物質に対する感受性が異なるため、ある匂いには敏感だが、他の匂いに対しては全くわからない場合もあります。

そして、特定の匂い物質を感知できない状態を「特異的嗅覚脱失」または「嗅盲」と呼び、味覚と同様、嗅覚の個人差にも、遺伝子レベルでの違いなどの先天的要因以外に、体験や学習など、後天的要因も影響します。また体調や精神状態などによっても、大きく影響して変わります。

人の嗅覚は敏感で、空気中のわずかな匂いも感知することができる一方、感知した匂いにはすぐに「慣れ」てしまい、あまり感じなくなるという特徴があります。

この現象を「嗅覚疲労」と呼び、慣れによる感受性の低下は、嗅覚以外の感覚でも同じようなことが起こり「感覚疲労」と呼ばれます。

ただ、嗅覚は特に疲労しやすく、すぐに匂いに順応して慣れてしまいます。例えば、香水を付けていても、自分はあまり感じないが、周りの人はよく気付いたり、市場など魚の臭いが充満しているところに居つづけると、最初は抵抗があるが、徐々に慣れてきます。

これは嗅覚疲労が起こらないと、いつまでも嫌なにおいを感じつづけ、精神的なストレスを受けるため、自分の身を守るために、進化の過程で獲得されたものだという考え方があります。ただ有毒ガスの場合は、匂いに慣れてしまうことで、自分の身を危険に晒してしまう可能性もありますので、嗅覚疲労が持つ意義については、よくわかっていないというのが現状です。