食材を浸す・漬ける 調理の基礎知識

野菜に場合に特に多い調理過程で「水に浸す」という作業があります。「浸す(ひたす)」は、液体を含ませる事で、「漬ける(つける)」は液体に一定時間、入れておく事です。

張りを持たせるために浸す

刺身に添える、大根のけん(つま)、サラダ用に千切りした人参など、切った後に流水にさらしたり、水に浸すということをします。

多くの野菜は、水分を90%近く含んでいるのですが、細く切った野菜をそのままにしておくと、歯切れが悪く、風味もなくなります。なぜかというと、切り口から水分が蒸発したり、流れ出るためです。

水につけることによって、野菜内部から外に出ることがなく、外側から水が入り込んでいき細胞が膨らむため、歯切れがよくなります。

しかし、水が温かいと細胞の組織にまで水分が入ってしまうため、柔らかくなって、シャキッとした食感がなくなります。ですので必ず冷水を使います。そうすることで、細胞膜に張りを持たせることができるのです。

ただ、あまりに長時間つけすぎると、吸水が限界になり、今度は野菜の組織から周りの水にビタミンCなどの栄養素が流れ出てしまうので、浸すのは短時間にしてください。

 

千切り野菜を水につけた場合は、細胞膜の液の濃度が、水 < 野菜 と野菜の濃度の方が高くなっているので、野菜から水に、野菜内部の水分が溶け出ないですが、

調味液や塩水に漬けた場合、調味液、塩水 > 野菜 と野菜の濃度の方が低いため、内部の水分が抜け出てしまいます。

漬物などを作るときに、塩を振るとしんなりするのは、そのためです。野菜の水分が引き出されてしまうために、柔らかくなります。

変色を防ぐために浸す

 

水に浸す作業の中でも、色が変わるのを防ぐために浸すこともよくあります。

ジャガイモは代表的で、ジャガイモは切った後に切り口を空気にさらすと酵素の力で酸化して褐色になります。そのため、切り口が少しでも空気に触れるのを防ぐのために水に浸します。

また、ジャガイモをビタミンC液に浸すと、空気に触れた時とは逆の酸化ではなく還元現象がおこり、水から引き揚げても褐色を抑えることができます。

ゴボウやレンコン、ウドなどの野菜の場合は、水より酢水につけることが多いです。*酢の割合は1割ほど

ジャガイモは酸化を抑えるためと、水を酸性にすることで、色を白く保つことができます。レンコンの場合は、その他にも粘りを無くし、歯切れをよくする作用があります。ズイキの場合、鮮やかな赤色を出す作用にためにも酢水を使います。

戻すための浸し

水につけて戻すものは、昆布だしやシイタケだしなども含め、たくさんあります。

出し汁の用途以外でも、干し魚を水に浸す場合がありますが、たとえばニシンの干物を戻す場合、アク汁や米のとぎ汁が使われます。それはなぜかというと、干物は乾燥するのに時間がかかるため、特有の渋みがあります。

アルカリ性をもつアク汁(植物を焼いた灰を水に浸して得る上澄み液)は、干物につけることで、渋みが抜けて風味がよくなる作用があります。また細胞膜をやわらかくし、水が浸透しやすくむらなく戻すことができるのです。

 

米のとぎ汁の場合は、同じく渋みを取り除く効果と干物からのうまみが溶けだすのを防ぐため(水だけだとうまみが逃げやすい)です。

ただ、これは昔の話で、今は製造技術も進み、干物特有の渋み(「油焼け」と呼ばれる)がほとんど見られなくなってきています。

アク汁に浸すのは、干物だけではなく野菜もあります。

ワラビやゼンマイなどのカタい山菜は、アク汁につけて煮ることで、柔らかく仕上げられます。さらにアルカリ性により、山菜の緑色をきれいに保つ働きもしてくれます。

アク汁は、料理屋ではあまり見ることは少なくなってきているので、いまでは、代わりに重曹を使っている店がほとんどです。*山菜の場合0.3%程度の重曹を加えます。

 

重曹も同じく、アク汁と同じ働きをしてくれますが、重曹などアルカリ成分は、どんな野菜でも柔らかくし(繊維の軟化)、組織まで崩れてしまうので、歯切れの良さを大切にしたい場合は、使いません。

また山菜ではない野菜に重曹を使うと、色が煮汁に溶けだしてしまいます。

干しシイタケを戻すために浸す

干しシイタケは、だいたい水温10度で40分、水温20度で20分で吸水を完了させます。漬けた汁も調理に使うのであれば、もっと長時間浸してうまみを溶けださせた方がよいですが、 干しシイタケそのものの味を使った煮物などでは、戻す時、水にうまみが逃げ出さないうちに取り出す必要があります。

水温が高ければ、早く吸水されますが、その分味の流出も早いです。そこで、砂糖が使われます。ぬるま湯の中に砂糖を少し入れると吸水が早いまま、うまみの溶けだしを遅らせることができます。

それは、浸透圧と言って、真水より糖液の方が、シイタケ内部との濃度差が少ないため、成分の流出も遅くなるという理由からです。

なので砂糖であれば、多少シイタケにしみ込むことはそこまで味の妨げにはならないですし、特に煮物の場合は、甘みが先にしみ込んだ方がプラスとなるので、少し砂糖を足したぬるま湯で戻すのです

昆布の出しを取るとき浸す

昆布にはグルタミン酸、マンニットと呼ばれるうまみ成分がありますが、その他にも、水に溶けだして味を落とす成分がたくさん含まれているのです。

例えば、アルギン酸やフコイダンという、ぬめりのもととなるものや、昆布に含まれるヨウ素も加熱することで、黄色の色素が出しに移ってしまいます。

出しの場合、うまみだけを引き出したいので、その他、必要のない成分の流出を防ぐには、沸騰させないことが大事です。加熱を続けると柔らかくなり、崩れてしまい、良い出汁が取れません。昆布は沸騰前には取り出しましょう。

ゼラチンを戻すための浸し

ゼラチンも冷水に浸して戻します。

ご存知の通り、ゼラチンは高い温度で溶けだしますが、乾燥した固い状態でお湯に入れても、表面だけが水分を吸って、ちゃんと溶けきれなくなり、ずっとゼラチンが固形で残ってしまうので、十分吸水してから加熱します。

番外 小豆(あずき)は浸さない

乾燥した小豆の皮はかたく、煮るとほかの豆より柔らかくなります。これは小豆の内部組織に澱粉が多く、水を吸いやすいためです。なので、皮が柔らかくなれば、水につけておかなくても柔らかくなります。

小豆の場合、赤飯などの色を重視することも多いので、長時間水につけておくと、キレイな赤色が抜けてしまいます。

また、小豆は同量の水分を吸収して2倍に膨れますが、豆のへそ(切れ目)の部分から中へ水が入り込み、5時間ほどで膨らんできます。しかし、皮はかたいので、水分を含むのに10時間以上かかります。そのため、皮が破れてしまいます。

そうすると、見た目も、味の流出もあり腐りやすくもなります。なので、小豆は水につけずにすぐに過熱をする方が、むらなく煮ることができます。また、沸騰したら、ザルにあけ水を変えるのは、「渋切り」と言って、アクや渋味を洗い流すのが目的です。

余談ですが、、、

こしあんを作る場合、何回も渋切りをすると、淡白で色を薄く作ることができ、渋切りを1回だけだと、アズキの風味が強い素朴な味の餡になります。

赤飯の場合は、煮汁を使うので、水を捨てずにアクとりをしてください。その焚いた小豆と煮汁、もち米を合わせて炊けば赤飯ができます。

大豆を浸す

大豆は塩水や重曹水につけておくと、皮も中身も柔らかく焚けるのですが、塩水は1%、重曹水は0.3%以下に抑えておかないと、柔らかくなりすぎてしまいます。