醤油を料理で使うときに、プロの料理人が、ふと疑問に思うような質問を取り上げてみました。

吸い物の最後に醤油を落とす理由

醤油は、塩味を付けるという目的より、うまみや香りなどの塩には無い特性を目的に使われることも多々あります。

吸い物はその代表で、塩味は塩そのもので味付けします。なぜならその方が素材の色や風味を生かせるからです。そして、醤油は香り付けの意味合いが強いため、最後に加えます。最後にしないと、香りが揮発して失われるからです。

そのため、味を付けたお椀の仕上げに、塩の強さにほとんど影響ない程度のごく少量の醤油を加えてお客様の前に出されます。

煮物の最後に醤油を加えるのはなぜか?

先ほどのお吸い物と理由は似ていますが、煮物の場合「さしすせそ」の順番に加えるのが良いといわれます。

食材の内部まで味を浸透させるため、まず“砂糖(さ)”を加え、そのあと“塩(し)”を加えます。そして、熱で揮発する成分の多い“酢(す)”“醤油(せ)”は後から加えるのです。

例えば、豆や芋、大根など同じ塩分濃度の食塩水と醤油液で加熱した時、醤油の方が、材料が硬くなります。それは、醤油の中の酸が影響していると考えられからです。

以上のように、香りと硬さの面から、最後に加えるのが良いとされています。ただこれは、食材の中まで味をよくしみ込ませたい煮物の場合であり、煮魚など、短時間で表面に味を付ければいいものや、おでんのように汁の味をそのまま食材に浸透させたい場合は「さしすせそ」の順番にこだわりません。

魚醤(ぎょしょう)と醤油は何が違うのか?

魚醤は魚から作られていて、醤油は大豆から作られています。簡単に答えを言うとそれだけなのですが、もう少し突っ込んでお話します。

醤油というとサラッとした液体を想像しますが、実はもともとはどろっとした味噌に近いゲル状の醤(ひしお)が原型なのです。

豆などの穀物から作られた醤(ひしお)を穀醤(こくひしお)

魚から作られたものを魚醤(ぎょしょう、うおびしお)

鳥獣肉から作られたものを肉醤(ししびしお)

とそれぞれ呼ばれ、大昔から調味料として活用されていました。

その他、野菜、果実、海藻などを塩や酢、粕などで漬けこんだ草醤(くさびしお)もあり、これは現代で言う“漬物”にあたります。

ちなみに魚醤は英語でFish Sauceと呼ばれます。そして、醤油はSoy Sauceです。そのままですね。

穀醤(醤油)は麹を加えたりカビが生えたりすることで、麹菌が付き、発酵が始まりますが、

魚醤は、主に魚の内臓に含まれる酵素が働いて醤になります。

麹を加えることもありますが、麹なしでも塩を加えて腐敗を防ぐうちに酵素の働きで自然に発酵します。そして、発酵して熟成してくると、魚介類のタンパク質が分解されてアミノ酸のうまみ成分になってきます。その時に液体が分離して出てくるので、これを醤油のように調味料として使っているのです。

魚醤は、もとは中国から来ていますが、日本でも、

秋田県のしょっつる(はたはた、イワシが原料)や、

北海道・石川県のイカ醤油

関西地方のイワシ醤油

香川県のイカナゴ醤油

など、地方独特の料理に用いられる魚醤があります。これらは、特有の生臭いにおいがありますが、醤油とは違ったうまみがあり、鍋ものにも相性が良いです。

中国のオイスターソースや南米やヨーロッパ南部のアンチョビーソースも魚醤の一種です。

魚醤は、タイではナンプラーと呼ばれ、ベトナムではニョクマムと呼ばれます。これらの原料はアジ、イワシ、サバなどです。

ほぼ透明なのも特徴の一つで、スープや炒め物、煮物、ドレッシングなど、なんでも活用できます

醤(ひしお)と同様のもので、中国では、醤(ジャン)と呼び、ソラマメのみそに唐辛子を加えた“豆板醤”や、小麦粉に麹、砂糖などを加えた甘味噌の“テンメンジャン”などがあります。

醤油の作り方の手順を説明すると、面倒だと思われがちですが、「醤油は放っておいてもできる」とも言われ、例えば、金山寺味噌の桶の底にたまっていた液体が調味料になることを発見して売りだされたと言われています。

それは、溜(たまり)醤油と呼ばれ、桶の底に溜まるのでこのように呼ばれるようになりました。

薄口醤油は、醸造過程の仕上げに甘酒や水あめが加えられることもあり、料理屋では、その隠し味を引き出すような味付けの工夫がされていたりします。

余談ですが、醤油を作るのに欠かせない麹菌を、老舗の醤油メーカーは、400年以上も前から秘伝の麹菌を受け継いでいるといわれます。

濃口や薄口は、これまでのメールでなんとなくわかったと思いますが、最後にその他3種類の醤油の簡単な説明をして締めくくりたいと思います。

溜まり醤油

濃口よりうまみに富んでいます。艶煮、あら煮、べっこう煮などや、煮魚や肉のしぐれ煮などに適しています。ただ野菜の煮物には向きません。

加熱すると赤みを帯びて美しいので、せんべいやあられのつけ焼きにもよく使われます。

再仕込み醤油

その名の通り、麹をタンクに仕込む時に食塩水の代わりに、加熱処理されていない「生揚げしょうゆ」を使います。

二度仕込むのと同じくらい手間がかかっているので、色も味も濃くなり、刺身・寿司のつけ醤油として用いられることが多いです。

白醤油

大豆2割、小麦8割で醸造され、約2カ月という短期間で製造される透明な醤油です。薄口醤油と同じように発酵を抑えているため、色が付きません。

生産は主に愛知県です。うまみは少なく、薄口醤油と同じように、白身魚や野菜の煮物に利用されたり、隠し味としても使われます。

 

以上、これらの知識を持っていると、かなりスゴイです。プロの料理人でも、ここまで詳しく語れる人は少ないのではないでしょうか。