最近ずっと考えていたことがあります。「料理を食べたくない」「いらない」と言うようなお客さんでも“絶対に食べずにはいられなくなる料理”または、“食べたいと思わせる料理”とは何かを考えていました。
そんなことを考えていると、前回の記事でも話した“愛情料理”という部分にも深く関係してきますが、究極の愛情料理とは何か?
今回お話しするのは、“確実に”“100%” たとえ、お腹いっぱいでこれ以上食べられないという状況だとしても、一口でも食べさせる料理です。
ここまでハードル上げてでも食べさせたいと思うのは、料理人のエゴかもしれませんが、 これからその方法をお伝えします。
★絶対に料理を食べる条件★
あなたが、もしお腹がいっぱいで、機嫌が悪く、食べたくない状況で、仕事で疲れて、早く眠りたいと思っていても、目の前に出されて、思わず食べてしまいそうな料理はなんでしょうか?
前提として、お客さんのことをある程度良く知っていること、または、会話の中でうまくお客さんの情報を聞き出すことが条件となります。
<アイデア1 地元料理>
誰にでも、生まれ育った地元の料理があります。そんな地元の料理を出されたら、思わず注文して食べてしまうかもしれません。
例えば、関西出身の人が海外に住んでいて、お店で食事をするときに、「○○(料理名) TakoYaki Style」などのメニューがあったら、食べてみたいと思っちゃいます。
まあ、普通に「たこ焼き」でもいいのですが、ちょっといいレストランで「たこ焼き」ではなくても、「Kobe Style」とかの表記で、あなたの地元にしかない食材を使ったり、料理があれば、かなり気になって、一口食べたいと思うでしょう。
<アイデア2 思い出>
想い出は強力です。道を歩いている時、昔、大好きだった人と同じ香水の香りがしたら、その人を思い出して、思わず振りかえってしまうように、料理でも、
· 好きな人と初めてのデートで食べた○○
· お母さんのよく作ってくれた○○
· 子供のころよく食べた○○
など、誰にだって、想い出の料理の1つや2つはあると思います。そんな料理が何かを探り見極め、お客さんに出すことができれば、 それはもう、確実に食べてもらうことができるでしょう。
<アイデア3 大切な人が作る料理>
個人的にはこれは究極だと思っています。これは家ではなく、お店・レストランで提供することがポイントです。サプライズ的な要素は大きいですが、効果は抜群です。というか 私がやってみたい料理の演出でもあります。
例えば、 プロポーズを間近に控えたカップルがレストランの予約をし、予約をした彼氏が、サプライズでその料理屋で彼女の好きな料理を作って、自分で作った料理を、その場で彼女に食べさせるというものです。
彼女がオムライスが好きだったら、彼氏はレストランの予約の日までに、その厨房でオムライスを上手に作れるように修業をして、当日、トイレに行くふりをして厨房に入り、オムライスを作って自らサーブするなど。
もしくは事前に作り置きできる料理であれば、作っておいて、シェフから「実はこちら、○○さん(彼氏の名前)が作ったものなのですよ」なんて言って料理を出します。そんなんされたら、たぶん嬉しすぎて、号泣するのではないのでしょうか?
多分、その料理屋にとっては、料理人殺しの料理となってしまうと思いますが、(なぜなら、どんなうまい料理を出しても、彼氏が作った料理が一番印象に残り美味しいはずだから、他の料理は印象が薄くなります)でも、それでいいのではないでしょうか?と私は思います。
私もさんざん体感してきましたが、やっぱり他人が作る料理より、身内が心をこめて作る料理の方が、何百倍もおいしく感じるのです。
それは相手の好みをわかっているからという部分もありますが、それは食材の良し悪しや調理のテクニックでどうにかなる問題ではありません。
同じ寿司屋でも、まったく同じネタ、シャリを使っているのに、「あの人が握る寿司しか食べたくない」と思うのは、そんな心理的な理由も大きく関係していると思います。
お客さんの好みは千差万別だと感じる瞬間でもあります。
<番外編>
これは、条件があって、2人いないと成立しない料理ですが、例えば、親子関係で亀裂が入った2人が向き合って座っていた場合、どんな料理を出せばいいのか?想い出の料理を出しても逆効果となりうる状況で何が出せるか?
いくら考えても出てこない場合、「料理を出さない」という選択肢もありだと私は思います。
2人の目の前に、大きな白い皿に銀の丸いフタをかぶして、中の料理が何かわからないようにテーブルに持っていき、座っている2人が何だろうと、気にして蓋を開けると、、、真っ白なお皿の上には、何もない、、、
この料理のメッセージとしては、「最初の前菜は2人で向き合って話すこと」
料理を出せば、口をもぐもぐ動かしてしゃべらなくなります。会話のない2人の場合、まず会話をさせることが、料理を楽しく食べてもらうために必要なことだと思います。
それを、何も料理がのっていないお皿をだすことで、2人に暗に「ちゃんと話し合ってください」という料理人のメッセージを込めます。
料理人だから、なにかしら料理を盛るという固定概念にとらわれず、究極「何も出さない」という選択もあってもいいのではないでしょうか?
それによって、食べる側が会話が進み、関係性が良くなっていくのであれば、「お皿の上に何もない料理」というのもそれは立派な料理かもしれません。
、、、このアイデアの発端は「ピアノ」です。実はピアノの曲の中には、なんと一音も弾かない楽譜が存在します。
ジョン・ケージが1952年に書いた「四分三三秒」という曲です。
ステージに登場した演奏者が一定の時間、一音も出さずに退場するというもので、その間に会場で聞こえてくる雑音や聴衆の発する音などが、すなわち音楽だ、という考えのもとに作られました。
実際は楽器の編成も演奏時間も任意で、楽譜には「休止」という指示があるのですが、これをニューヨークで初演したピアニストのデヴィッド・テュードアが、ピアノの前に座って指示通り何もしないでいた時間が、四分三三秒だったことから、この題名となりました。ちなみに、譜面には三つの楽章の表示まであり、それぞれの楽章に割り当てる時間も、演奏者の自由に任されています。
動画はこちらです。
他にも面白いものには、 ピアニストに詩や呪文を唱えさせたり、ピアニストに演技させる曲もあったりします。初めて見たときは、あまりにも衝撃で思わず笑ってしまいました。「こんなん誰でもできるやん!」とか思ったし、 なぜ演奏が終わった時に拍手が起こるのか不思議でした。でも、突き詰めるとこんなのもありなのかなとも思います。
ピアノも料理も芸術も極めすぎてイッちゃうことまで行くと、
「料理のない料理」で、 会話を楽しんだり、周りの音楽や雑音を聞いたり、雰囲気を楽しんだりするための時間をつくるための、 「時間や空間を楽しむ料理」も面白いかもしれません。
レストランのメニュー表記で、前菜「4分33秒」 て書かれた“時間を楽しむ料理!?”があったら、私は注文するかもしれません(笑)
最後は少し脱線しましたが、もしかしたら、「絶対に食べさせることができる料理」は 最後に話した料理、前菜「4分33秒」かもしれません(笑)