味覚実験
前回、絶対味覚は存在しない理由についてお話ししました。今日はこの“味覚”について昔、興味深い実験をしたことがあるので、報告したいと思います。
これを読むと私の昔の性格の悪さがばれてしまうのですが、当時は、料理をしながらいつも疑問を抱いていたので、こんな実験もしてしまったのです。
おそろしい人体実験
では、それはどんな実験かと言うと「人体味覚判断実験」です。
私が料理人見習いの頃、当然周りには何十年もバリバリ現役で料理をしている、言わば日本料理の味覚のプロが大勢いました。
そんな料理人たちは、毎日のように味を見て、料理は大物政治家や有名芸能人、茶人など、業界のトップクラスで、しかもいつも高級で美味しい料理しか食べないような人たちに提供する料理を作っているため、料理に対するこだわりも半端じゃありません。
その中で、煮方で補助をしていたころのことです。煮方とは、知っている方も多いでしょうが、日本料理でお椀や焚きあわせなど、味を決めるうえで一番重要なポジションです。そんな、ポジションの隣で仕事をしていた時のことです。
お吸い物一つでも、醤油一滴で味が変わる。
これは私自身もよく理解しているつもりですが、そこに違う要素(感情など)が入ると、感覚が混乱(麻痺)するのです。
たとえば、よくある例であれば、<疲れている時に味の濃いものがほしくなる、甘いものが食べたくなる>など自分の体調から来る味覚の変化もあります。他人からの影響などで自分の味覚が変わる場合もあります。
- 先輩からものすごく怒られて落ち込んでいる。
- いつもと違う雰囲気や場所で仕事をする
などです。さらに、私の行った実験はこうです。
大ベテランの先輩料理人を実験台に、、、
ある分量が決まっているレシピに沿って、調味料を配合した後、上の人に味見をしてもらった時のことです。
「ちょっと濃口醤油を足しておいて、、、」と言われた後、私は濃口醤油を足す“フリ”をして、なにも加えずに、さっきと全く同じ味のものを持っていき味見をしてもらいました。
すると、、、「よし、よしこれでいい」と答えたのです。つまり、濃い口醤油を私が入れたと思い込んでいるため、味が変わったと思い込み、自分の脳がちょっと味が濃くなったと勝手に認識したと思われるのです。
どうですか?ひどいですよね、、、。当時の私はこんな事をしてみては、いかに人間の味覚があやふやかということを実験で体感していました。
もちろん今はやりません。
ただその逆もあったことも確かです。
分量通り、調味料を合わせていたつもりが、塩一つまみとか、それくらいの量の調味料を入れ忘れて、味見をお願いしたところ、「塩入れた??」と間髪いれず指摘されたこともあります。
味覚人体実験の結果
結論としてわかったのが、ほとんどの人の場合、料理内容にもよりますが、自分の想定内の誤差の味であれば、ほとんどの人が気付かないのです。
毎日同じものを作り続けている、何十年も経験があるプロがそうだから、一般の人はもっとわからないはずです。ただ一つ言えることは、毎日同じ料理を作っていても、正確に同じ味のものを作ることは不可能に近いです。
この感覚はミクロの感覚ですが「今日は決まった」「今日はいまいち」などが実際にあり得るのです。かといって、その自分の気に入った、決まった味付けがお客様のものすごく評判が良いのかというと、それはまた別の話になります。
やはり、料理はかなり奥が深いですが、さまざまな検証や理由により、絶対的な味覚を持つ人は存在しないという結論にいたります。