『花を咲かせる揚げ方』
個人的にはこの”花”は好きではありませんが、海外の料理屋にてどうしても作らなければならないことになり、できるようになっちゃったので一応載せます。
あまりにも「わたし、ハナ付けました!!」みたいな、たくさん花がついている天麩羅をよく見ると、わざとらしくてキライです。しかし、適度な”ハナ”は見た目にも好きですし、私自身、花をつける場合、量より美しく咲かせるのに気を付けます。
海外は、特に”見た目”や”ボリューム”を大事にするため、天麩羅に”はな”を付けるのが主流です。(海外にも日本にある天ぷら専門店にある様な薄い衣で揚げた”はな”の無い天麩羅もあります。海外で日本料理をやる場合、この技術は必須と言ってもよいでしょう。
さて、本題です。天ぷらには、色々な「揚げ」のスタイルがあります。
『素材を楽しむ天ぷら』をだす天ぷら専門店では『棒揚げ』(「衣」は薄く、花を咲かせない揚げ方)の店がほとんどだと思います。
一方、『花を咲かせる揚げ方』とは、衣を余分に素材に付け、見た目にもボリュームがある天ぷらに仕上げるスタイルです。「天丼」「天ぷらうどん」等に乗っている天ぷらがそうですね。
なぜ『花を咲かせる』のか?
衣にボリュームを付けることによって、天丼の「たれ」、うどんや蕎麦等の「汁」を衣が吸って、衣の表面積が増えることにより、『棒揚げ』の時よりも食べた時の満足感がでる(素材と同時に衣も楽しむ天ぷらになる)。
これが目的だと思われます。
そのほかの使い方として、、、見た目やボリュームを出す為だけに、『花を咲かせる』のとは別に、
1;衣に「グルテン」が出たときに、衣に「立体感」が得られない場合、
2:素材によって、急激な温度の変化による収縮を防ぐ為、
そのようなときも、あえて花を咲かせる技法も必要になります。
この場合はボリュームを目的としている訳ではないので、天丼、天ぷらうどん等の「花を咲かせる」意味とは違います。
実際、花を咲かせる天ぷらを作っていて思いましたが、「花を咲かす」のもそれなりに技術が必要になります。もちろん「 棒揚げ」も技術は必要。
実は意外と難しい「花の咲かせ方」ですが、ちゃんとポイントを抑えていれば、できます。これまでの、天ぷらの記事を読んでいればすぐにできる知識はついています。
「油の表面で衣が散ってしまう」「厚くなるだけで、うまく平らに花をつけれない」このように悩む方の気持ちは、やったことがある人ならわかりますよね。
ちなみに「花付け」の場合「棒揚げ」の技術とは逆の理論ことを言うかもしれませんので、よく注意して読んでください。
ポイント1:必ず打ち粉をする。
薄衣だけでは、花は咲かすことはできません。
衣が薄いと、油に入れた瞬間に余分な衣が散っていきます。棒揚げならば、これで良いですが、花を咲かす為には、
・完全に素材に打ち粉をし、衣の乗りを良くする
・衣が厚い分、油の中に入っている時間が長い為、素材を保護しなくてはならないから
この2つの理由によるためです。
ポイント2:油の温度は「やや低め」
適温で揚げ始めないことです。
なぜなら、高温で揚げ始めると、薄衣では、花を咲かせようとしても、表面で散ってしまいます。
ポイント3:油の深さを浅くする。
これは鍋の形状などによりできない場合もありますが、鍋の手前側を高くして油の深さを浅くする事。
なぜかというと、油の中に入れてから少しの間、素材は鍋の底に沈みます。 やがて素材は油の表面に浮いてきます。この浮いてきた時に、一生懸命衣を付けようとしても、上手くいきません。つまり、揚がってしまった天ぷらに花を付けることはできません。
「ポイント2」でやや低めの温度で揚げるとありますが、当然揚げ始めてから全開の強火にしないと、衣の量が多い分、油を吸った重い天ぷらになります。
ということで、鍋にも一工夫します。底の深い鍋では、花を咲かすことは難しいです。
底の深い鍋の底に沈んだ素材に衣を付けようとすると、上面の温度の方が高い為、衣は見事に表面で散ってしまいます。
では浮き上がってきてからとなると、その時はすでにかなり火が入っていますので、これもまた美味しいものはできませんし、そもそも衣も乗りません。ここで一工夫をしてみます。
ガスこんろと鍋の間に、石などの不燃物を挟み、鍋の手前側を若干高くします。
鍋の手前側を高くして、素材を入れる場所の油の深さを浅くすることによって、鍋の手前側に冷えた素材を投入しても、浅い為に衣を乗せやすくなります。
※ 底の深い鍋の場合は、油の量で深さを調節してもいいですが、 油量が少ないほど、劣化も激しく、温度管理も難しくなります。
ポイント4:衣の濃度を上手く調性しながら揚げる。
プロの天麩羅衣は、揚げる素材、油の変化、衣の変化に対応する為に、衣のボールの中には違う濃度の部分を用意しています。衣の濃い部分と薄い部分を一つのボールの中に用意します。
ひとつ例を挙げると、衣が出来た時に上面に粉を少し足しと、衣の上面の方は若干濃い濃度の衣、衣のボールの中間は薄い衣になります。
ポイント5:箸は太いものを使う(手を箸の代わりに使う)
花を咲かせる為には、衣箸も太いものを使ってください。細い箸ですと、箸に衣が乗る量が少ない為、時間がかかります。その間に揚がってしまうと、その時はすでに衣は乗りません。とにかく油に入れてからは「速さ」と「タイミング」を要求されます。
私はやりませんが、手を使って衣を落とし花をつける人もいます。
キッチンの中でお客さんから見えない、安い定食屋、、とかならいいかもしれませんが、結構いい値段とる天ぷら屋のカウンターでお客の前で天ぷらを揚げるときに手を使って花を咲かすのはやめた方がいいと思います。
実際、5本の指から衣を散らすので、2本の箸を使うより早くてキレイにたくさんの花をつけることができますし、団体や宴会など大量に大きな鍋で天ぷら揚げる場合は良いかもしれませんが、、(ちなみに大量に揚げる場合でも私は”箸”できれいに花をつけることはできます)
それよりも手を使うことの荒々しさというか、見た目的に美しくないというのが私のやらない理由です。手を汚すのも私の料理の美学に反しますし、どうかと思います、、、ま、人それぞれなので、働いている店のスタイルや自分の得意なやり方でやってください。
おまけ
ポイント3で鍋の高さを変えるのがありましたが、レストランでは固定されて動かすことができないフライヤーを使っている人も多いでしょう。そんなときのアドバイスです。
素材を入れ、火が通るにつれ上に上がってくるのを見計らって、花用の衣を散らします。
その素材に付けるタイミングは衣が少し固まってきた時です。その時に鍋の表面に上がってきそうな感じであれば(というよりそうなるように計算して衣の固さや素材を見極める)その時に衣を散らして、花をつけることが可能です。
もしくは素材に付ける衣の量や重さをうまく調節できなければ、軽めに作り、すぐに油の表面に出てくるようにしておき、その時、花を散らすと同時に箸で素材を揺らしたり、少し沈めて花を強引につけさせる方法もあります。
そのほか、素材を入れる前に花をたくさん散らしておき、その後素材を入れ、最初に散らして固まった花をつけさせる。という方法もあります。
はっきり言って、素材を生かさず花をつけることだけに集中すれば、だれでもできます。手を衣に付けて垂らしてつけるのも簡単で早いです。
ただ素材も活かし、花もキレイに付けるのであれば、やはり材料を熟知していることと、今まで紹介してきた天ぷらをうまく上げるポイント、そして正確さとスピードが要求されますので、1週間程度で簡単に習得できるものじゃありません。
プロの料理人として、どのような条件でもうまく天ぷらが作れるよう技術も知識もしっかり身に付けてください。
天麩羅海老に花をつける方法
おそらく、花をつける素材は海老が一番メインになるか、多いのではないでしょうか?(特に海外では)その海老に花をつけるやり方を解説します。
まず、剥いてある部分に完全に打ち粉して下さい。衣の濃度の濃い部分を付けて、鍋の手前の浅い部分に静かに投入してください。油の温度は170度前後です。
加熱をしながら、太い衣箸で最初はやや濃い目の衣を「海老の尾っぽ」「頭の付け根」と交互に、海老の上を箸を走らせるように、衣を直接海老の上に付けて行きます。この時に、箸が油に入っても気にせず、海老に直接当たるくらいの方が上手に出来ます。
衣を付けている間に温度も上がっていきますので、今度は衣の薄い部分を続けざまに海老の上に箸で乗せていってください。リズミカルに海老の上で前後に乗せていくと、均一に花を咲かせることが出来ます。
衣の濃度が濃すぎると団子になってしまいますから気をつけてくださいね。衣が上手く着いたら、鍋の奥、油の深い場所に移動させてください。花を咲かせた部分も完全に火を通さないと、食感がカリッとなりません
もっと天ぷらの秘密を知りたい方はこちら↓↓↓日本料理大百科「天ぷらのコツと科学」
コンテンツ
●天麩羅(てんぷら)についての基礎知識
●なぜ、家庭ではうまく天ぷらが作れないのか?
●揚げ物に使う鍋の種類
<油>
●油が悪くなる原因
●油の比重(油と水はどちらが重い?)
●天ぷら用の油は何を使う?
●油の種類と用途の違い
●油の温度の見方
<衣>
●天ぷら衣の作り方のコツ、ポイント
●てんぷらの衣濃い薄い
●天ぷらの衣はなぜ冷やすのか?
●かき混ぜていけないのはなぜ?どこ?
<素材>
●魚介類の天ぷらの種類とコツ
●野菜のてんぷらを揚げるコツ・ポイント
<揚げ方>
●天ぷらをうまく揚げる4つのポイント
●揚げものに火が通る原理
●天麩羅の”花”を咲かせる揚げ方
●「揚げ物は一度に一気に入れてはだめ」
●油の温度を下げず”カラっ”と天ぷらを揚げるために、、、
<変わりネタ>
●アイスクリームの天ぷらの作り方
いつも、読ませて頂いて大変勉強になります。
天ぷらについて質問させてほしいのですが、強引に花をつけるのではなく食材をいれて(特にエビ)何もせずに霜柱が立ったような花を咲かせるにはコツなどあるのでしょうか?たまに揚げてるとイモムシのような海老天ができてしまうのです。
宜しくお願いします
ご質問ありがとうございます。
まず、色々な条件が考えられますが、
一つ目は、衣の状態です。
イモムシのような海老天というのは、おそらくグルテンができてしまっている衣という印象がうかがえますので、
衣を作って時間が経っていないか?混ぜすぎていないか?粉の量が多すぎないか?
などをチェックしてください。
二つ目に、油の温度です。
温度が低すぎると、ぼてっとしたイモムシのような海老天になりますので、
油の種類にもよるのですが、165度から175度あたりで揚げると良いかと思います。
また、大量に揚げ物をした後は温度が下がっているので、
その後に挙げる場合は、時間をおいて、ちゃんと温度が高くなってから上げるようにしてください。
特に自動温度調節のフライヤーの場合だと、機械頼りになってしまいがちなので注意してください。
3つめには、
これはちょっと細かい部分なのですが、揚げる時のエビの向きを見てください。
のばしたエビの腹側を上にした方が、自然と衣の花が付きやすくなります。
あとは、油への入れ方です。
上記三つのバランスが取れて、それでかつ、
油へエビを入れる時に、ある程度下まで潜りこませることで、自然と花が付いた状態になりやすいです。
そのためには、ある程度の深さのあるフライヤーや鍋が必要です。
また、天ぷらは、そのまま食材だけを食べる。天ぷらうどんの天ぷらとして。
弁当など多少時間を置く場合など、
条件が様々ですが、
その料理や提供内容によって、適した衣の付け方や揚げ方もあるので、
そちらも研究されることをお勧めします。
以上、参考になれれば幸いです。
ご不明な点があれば、またご質問ください。