先日、読者さんに質問をいただきました。
『和牛の牛すじでブイヨンを取りました。ミルポワ、塩などの調味料など一切入れてない、すじと水だけのブイヨンです。すじは一度茹でこぼしてから使用してます。すじは、どこでも購入可能な一般的なものを使用しています。その、ブイヨンを味見すると酸っぱいです。知り合いのフレンチのシェフもすじのフレンチは酸味あるとおっしゃっていました。オーブンでカリカリに焼いたすじを使っても、酸っぱいそうです。 何か対策があればご教授頂けたら幸いです』
たしかに、牛筋で出しを取る時、酸味を感じます。私はほとんどの場合、強めの味付けでソースを作りますが(牛筋煮込みなどもよく作ります)、日本のお吸い物のような繊細な出し汁のように牛肉を使ったブイヨンでは、どのような可能性や対策があるのかを考えてみました。
全て試作しているわけではないので、確証は得ていませんが、わかり次第、記事内容をアップしていきたいと思います。
酸味が出るのを防ぐ、または気にならなくする対策として大きく2つに分かれます。素材から考えることと、調理段階でのアプローチの2つです。
1:肉自体の質
A:熟成期間
どれくらい時間が経っているかによって酸味の出具合が変わってくると思います。
特に肉が劣化、脂が酸化して酸っぱい匂いを発している場合。腐る一歩手前とかは酸味が出やすいかもしれません。
B:飼育時に牛が食べる牧草か穀物によるもの
酸味に大きく影響するのかはわかりませんが、Grain fed(穀物)かGrass fed(牧草)によって差が出るかもしれません。
【グラスフェッド・ビーフ】
牧草を食べて育てられた牛。脂肪は少なく赤身が多い特徴です。(オーストラリア人好み)
低脂肪・低カロリー・低コレステロール
【グレインフェッド・ビーフ】
牧草で育てた牛に穀物(グレイン)を一定期間与えて育てられた牛。赤身と脂肪が程よく混ざった牛肉(日本人好み)
やわらかくジューシーな味わい。
C:牛の状態
経産牛(出産を経験した牛)、未経産牛(出産をしていない牛)などの違いで、乳牛や経産牛も食用として肥育されることもありますが、未経産牛や去勢されたオスの牛の方が肉質が良いので、その違いでも若干臭いや酸味に影響があるでしょう。
国産でも低価格で売られる廃牛肉と呼ばれる年老いた牛は肉質も硬く臭いが強いと思われます。
D:スジ肉の場所
スジ肉と言っても3種類の部分があり、
・アキレス腱の部分
・スジ(筋)
・メンブレン(ハラミの外側の横隔膜の一部)
があります。
一般的に肉を各部位に切り分ける時に、下処理で肉についている余分な筋を取り除いて集めた部分である2番目のスジ(筋)が売られていると思います。
1番目のアキレス腱の部分は、入手が一番難しく、ほとんどがスジで脂身は少ないです。もしかしたら、このアキレス腱の部分でブイヨンを取るのが一番酸味が出にくいかもしれません。
2:調理過程での違い
私自身、検証していないので確かなことは言えませんが、
A:水の違い
水の硬度によって、軟水、硬水とありますが、それによって、肉自体からのうま味や酸味などの抽出具合が変わってくると思います。
B:他の食材と一緒に調理する
どのような料理に使うかによってブイヨンを取る時に入れる食材を変えてしまう。
玉ねぎや人参など野菜を入れコンソメのように仕立てたり、トマトや昆布などを入れることで味の相乗効果を狙う方法で牛のイノシン酸と玉ねぎ・昆布などのグルタミン酸を合わせて酸味を和らげるようにしてもいいかもしれません。
また貝殻やこんにゃく、重曹などのアルカリによる中和やハーブ・スパイス系も使えます。
C:他の酸味でごまかす
肉料理は酸味のあるソースと合わせることが多いので、ブイヨンを使い酸味のソースを作るのであれば、その他の調味料(ワインや酢)や食材(トマト・チーズなど)を合わせることでもともとの酸味を感じなくさせることができるでしょう。
先ほどと同じくハーブを加えても良いでしょう。
D:下処理の段階を工夫
酸味がそこまで抜けるとは思いませんが、臭みをとるために、牛乳に漬けたり、日本酒などに漬けて置いたり、また、事前に塩を振っておいたりすることでも若干変わってきます。
備考:
牛に限らずですが、魚なども死後硬直を起こして、筋肉の中のグリコーゲン・酵素が乳酸やリン酸を作り出すので、魚は鮮度が良い方がよく肉は熟成したほうがよいと思われているのが一般的ですが、両者とも逆のアプローチで美味しく食べられることもあります。(*乳酸は穏やかな酸味、リン酸は渋味を伴い酸味を強く感じる)
魚は熟成させてうまみを引き出したり、牛は屠畜後数時間の場合も甘みを感じるともいわれています。(2~3日後はうまみが落ちるので評価が下がります)
つまり、新鮮な牛だと、また全然違った味や風味、うまみを出す新しい肉料理として確立できるかもしれません。