曖昧で不完全な“ごきぶりのさしみ”

【昭和の料理人録2】ゲテモノ料理はお好きでしょうか?

私はどちらかと言えば好きではありませんが、職業柄「とりあえず何でも食べてみよう」という探求心はあります。

それでも「ごきぶりを生で食べろ」と言われたら、速攻で走って逃げます。さすがに食べません。

でも、ゴキブリの刺身を進んで食べた先輩がいるのです。

信じられません。その勇姿を称えて、そのA先輩の記録を書き残そうと思います。

“ごきぶりのさしみ”はいかが?

これは私が初めて働いた職場での出来事です。 都市伝説のように、そして笑い話のネタとして語り継がれていた話があります。

ある日の出来事、、、そのお店(飲食店)に、一人のヤクザが食べにきました。

見習料理人だったA先輩は、ホールの接客もこなしていて、そのヤクザはとても怖そうな顔をしていたので、ビビりながら接客していたそうです。

そんなときに限って運悪く、神は試練を与えます

3品目の料理をサーブした時、ヤクザが新米の彼に言いました。

「おい、なんだこれ、お前の持ってきたサラダの中にゴキブリが入ってんぞ」

新米の彼は、サーと血の毛が引くのを感じました。

その瞬間、走馬灯のように、まずは最初に親の顔が思い浮かび、これから起こるであろう最悪の出来事を脳内で巡らせました。

まずヤクザに誤っても許してもらえず、店内で暴れて、それを抑えようとするがボコボコにされ事務所に連れていかれ、A先輩はコンクリート詰めにされて、大阪湾に沈められ、そのお店は廃業し、親方は家族とともに自殺、、、

、、、

、、、、、

という最悪のシチュエーションを想像したはずです。そんなシナリオを瞬時に描いたのと同時に、A先輩はある行動を起こします。

パッとそのゴキブリを手に取り、

口に入れて、もぐもぐごっくん。。。

そして、そのヤクザに、「すみません、お客様のお口に合わず申し訳ありませんでした。」と頭を下げ、「すぐに変えさせていただきます。」と言った。

この対応に、ヤクザは「おまえなかなか根性あるやんけ、わかったわい」、新米料理人の気転のきいた対応に、お店は窮地から脱出しました。

そして彼も何事もありませんでした。

、、、

そんな伝説があったのです。

実際そのヤクザがわざとゴキブリを入れて因縁つけたのかどうかは今となってはわかりません

、、、

でも、生のごきぶりってどんな味なんだろう?

そんな緊急事態であれば、A先輩は一心不乱で味もわからず飲み込んだと思いますが、想像しただけでも気持ち悪くなります。

そして私は、「こんな厳しい世の中で過ごした昭和の料理人たちは、なんてたくましいんだ」と思うのでした。

 

 <追伸>

でも、そんなゴキブリも実は、俳句で使われる夏の季語なのです。

蒸し暑い夏場によく出現していたのが理由みたいですが、ちなみに俳句ではゴキブリを“油虫”と表現されています。そして、ゴキブリは蜘蛛(クモ)を退治すると言われていて、その蜘蛛も夏の季語です。

、、、最後にちょっとだけゴキブリの印象を良くしたつもりです。