海外の認知症患者さんのいる介護施設で現場研修

1か月ほど、ある施設へ研修をしていました。

シドニーでもかなりの大きさを誇る施設で、認知症の段階別によって、場所(階層や棟)が分かれていました。

そこで、さまざまなレベルの認知症の方と直接接して、朝から身の回りのサポートをするという研修です。

あまり言葉でも言いづらい、衝撃的なおトイレ系の話もたくさんあるのですが、ここでは置いといて、

先日その研修が終わったので、感想も含めて、実体験に基づいた【海外の認知症患者・介護施設の現状】について話したいと思います。

ちなみに私は、日本での介護経験はないので比べることはできないので事実だけを書いています。イメージとしてはホテルに介護環境がついているような場所です。

5つの段階

その施設(という言葉しか思い浮かばないけど、あえて言うなら“村”と言っていいくらい大規模)には、大きくわけて5つのカテゴリーに分かれます。

病院ではないですが、日本で言う介護施設みたいな感じかな?老人ホーム(という言い方がいいのかどうかは知らないけど)とか、まあ、ようするにお年寄りがたくさん住んでいます。

場所はシドニーでも、高級住宅街と呼ばれる地域で、さきほども触れましたが施設としては最大級です。

その中にもいくつか棟が立っていて、その人の状況によって順番に住む場所を移動(レベルを移動)できるシステムです。

住んでいるほとんどは、家族が近くにいなかったり独り身の人が多いです。看護師が24時間常駐しているので、住んでいる人にとっては安心感は半端ないと思います。

<生活レベル1>

なんの支障もなく、問題なく生活できるレベル。
一人で外出も問題ない。

<生活レベル2>

認知症初期。

普段通り生活はできる。外出もできる。ただスタッフが定期的な見回りやチェックはしている。

<生活レベル3>

認知症中期。

だいたいは自分で色々なことができる。

でも、日常のちょっとしたことが困難だったりするので、トイレやシャワーなど、一人でできても靴下がはけない、身体を拭けないなど、ちょっとしたサポートが必要な人も結構いる。

でもしゃべることは問題ない人は多く、頑固な人もたくさんいて、クレームや説教くさい人もいる。ほとんどは「自分は問題ない」と思っているが、所々認知症の症状が出てくる。

<生活レベル4>

認知症後期。

4ww(Four Wheel Waloker)と呼ばれる、歩行補助機を使ってなんとか歩けたり、車いすで移動する人がほとんど。

ずっと徘徊している人がいたり、突然泣き出したり、暴力的な人もいる。食事も一人では困難な人もいます。

このレベルまでは、まだ来訪者は来ます。(パートナーや家族など)

<生活レベル5>

認知症末期。

寝たきりの人や自分で寝返りを打つこともできないくらいの身体が不自由の人が多い。

目もちゃんと見えていないし、食べることもなかなかできない人もいる。

大きなソファのような車いすで移動する(自分では動くことはできない)

しゃべることはかろうじてできても、母国語しか話せないひとも多い(オーストラリア国外からの移住者だった人は、第二言語の英語はほとんど忘れている)。

結構見放されている人が多いようで、または年齢的にも身寄りが誰もいない人もいます。

笑顔を向けると、笑顔で返してくれて可愛らしい人が多いので、空間的には、ほんわか、ゆったりしています。

 

以上のような5段階に分かれています。ちなみに住んでいる彼らのことを、ここでは患者さん(Client)とは呼ばず、住居人(Resident)と呼びます。Residentのほとんどはオーストラリア人(白人)です。

ただ、今回の研修場所はオーストラリア人ばかりのところでしたが、多国籍国家のオーストラリアでは、中国系ばかりの施設やその他の国に特化した施設もたくさんあります。

日本人は人数が少ないため、日本人専用の大きな介護施設は今のところありません。

スタッフ

規模が大きいだけに、ものすごくシステムがしっかりしています。

役割分担も明確にあります。ビジネスとしても良くできているように思えます。職場環境はかなり良いと思われます。

また住んでいる人(Resident)が、一目見てわかるように、それぞれ各ポジションの人がユニフォームの色でわかるようになっています。

なぜユニフォームの色が違うのかというと、多くのResidentは目が悪いからです。

なので色ですぐに判断できるので質問などをしやすいです。

またスタッフの人数も多く、入れ替わりもあるのでスタッフ間での仕事上のコミュニケーションも取りやすいです。

全体的には9割が女性です。(スタッフも住居者も女性ばかり)

◇医者

その施設会社のスタッフではないので、スーツだったり、まあフォーマルな服装です。

常駐してはいませんが、つねに誰かしら(Residentによって管轄の医者が違うため)いる状態で、

その医者もそれぞれ個人についている医者なので、外来診察っていうのかな、外から来て部屋で症状をみる、ということを各人定期的にしています。

◇マネージャーやマーケティング、人事など

オフィスワーク系の部署の人達も基本服装は自由です。

◇Nurse(看護師)

紫のユニフォーム。

やることは薬の管轄・非常時に対応・怪我などの処置。

◇Support worker/AIN(Assistant in Nurse)と呼ばれる介護士

青のユニフォーム

大きく役割が2つに分かれていて、一つは身の回りの世話をする係。

もう一つは看護師に支持された薬などを、それぞれ与え薬をのんだかどうかの記録をしたり、血圧や体重を計ったりして、状態の変化を看護師に報告する係(こちらの方が高度な知識と資格が必要で地位も給料も若干高い)。

◇理学療法士・作業療法士・料理人・クリーナー(掃除をする人)

紺色のユニフォーム

◇アクティビティなどの行事を担当する人

黄緑のユニフォーム

◇研修スタッフ(今回の私のポジション)

白のユニフォーム

 

以上のように、色別で誰が何を担当しているのかがわかります。

また、ユニフォームは毎回洗濯に出し(クリーナーが洗う担当)、毎回常に新しいユニフォームを着るようになっています。

感染予防とかの面でもしっかししているので、マスクやエプロンなど徹底しています。

特に一番使うのは、使い捨て手袋。場合によっては一日一人一箱(100pc)使うんじゃないかと思うくらいの消費量です。

働いているスタッフはオーストラリア人は少なく、一昔前は、色々なアジア諸国のスタッフが多かったみたいですが、2020年あたりからは、ネパール人のスタッフが7割近くだそうです。

なのでネパール語を少し覚えました(笑)どうでもいいですが、ネパール語の挨拶はなんとインドと同じ「ナマステ」です。

働く時間

オーストラリアの労働基準法はとても厳しいです。頻繁にチェックが入り、規定に反していると高額な罰金があります。(もちろん会社が払う)

部屋以外には監視カメラもついているので、スタッフでも違法なことをしていたりしたら、訴えられた時など、監視カメラでチェックされて証拠が見つかったら、即解雇になり、同じ職種に着くこと(再就職)は今後困難になります。

 

例えば、歩行器具を使って移動中に、携帯電話が鳴り、その場にいた介護士が携帯に出ることを許可してしまい、その後Residentは運悪く転んで足を怪我した。

その家族が会社を訴え、証拠が録画ビデオで確認され、その介護士は二度と職場復帰できなかった。その介護士はとても仕事ができて、スタッフにもResidentにも慕われていたのですが一度の過ちで全てダメになりました。

なんて話もざらに聞きます。

 

話は戻りまして、この施設では基本最大1日8時間までの労働なのですが、5分でも就労時間をオーバーしてまだ職場にいようものなら「なんでまだそこにいるねん、はよ帰れ!」と言われます。

「え、もう少しで終わるから、、、」とか言っても「そんなんいいから、だれか他のひとがいるから大丈夫だから帰りな」と邪魔者扱いされます。

日本人的には美徳とされる残業!?のようなことはまずありません。

よかれと思って仕事熱心なところを見せようと残って頑張って仕事しても、逆に時間内に仕事がデキない人だと思われて評価が下がる恐れがあります。

しかも、基本あちこちに監視カメラがあるので、いざとなったら、というか何かあったときのためにチェックできるため、みんな時間を厳守して、その時間内に仕事を終わらせますし、終わらなかったとしても次の人に引き継ぎます。

ただ、よく遅刻する人もいるのですが、その場合は30分遅れたら、30分余分に仕事をするというスタンスです。(そこはテキトー)

出勤時と退出時はパスワード入力と顔写真を必ず撮る場所が設置されており、それでしっかり仕事の時間を管理できています。この時点でも、かなりシステムがしっかりして効率が良いのかがよくわかります。

また働く時間は3部制に分かれていて

  • Morning Shift(朝番)6:30-14:30
  • Evening Shift(夜番)14:30-22:30
  • Night Shift(夜勤)22:30-6:30

だいたいこんな振り分けでシフト制で回っています。間に休憩が30分以上あります(食事休憩)。各自弁当などを持ってきて食べます(従業員食堂はない)

仕事のルーティーン

朝は、Residentを起こして車いすに移動したり、顔拭いたり、歯磨きしたり、朝食までにそれぞれの部屋を周り、チェックします。

8時ごろに朝食。認知症後期以降は自分で食事を口に運ぶことも困難なひとが多いので、Feeding(食事を与える)をします。もちろん流動食です。

食べ終わると、少し落ち着いて、Bas tripと言って、バスに乗って小旅行をする人もいれば(追加料金がかかる)、
昼食までリビングや部屋でゆっくり過ごす人もいます。

また、部屋のを開けている間に、掃除やベッドメーキングなどもします。

10時30分はMorning teaと言って、コーヒーとビスケットとか食べます。

12時の昼食が終わるとまた少し落ち着き、アクティビティルームでイベントがあったり、ゲーム大会など、また神父さんが来てお祈りしたり、

クリスマスや母の日などや祝日などは、生演奏のバンドを呼んだり、ちょっと豪華なハイティー(お菓子とコーヒー)を食べたり、

また私はハッピーアワーというおやつの時間帯に、上司にお願いされ大勢の前でマジックショーをしました(笑)

*私の昔の趣味は手品です。

また、そのようなイベントは無くても15時には軽食があります。(モーニングティーと同じくコーヒーとクッキーなど)夜は6-7時くらいから夕食。

それからシャワー浴びたり、着替えをするのを手伝ったりして、そして就寝。夜は見回り。みたいな流れです。

食事

料理に携わっていた私としては、かなり興味のある部分だったので、すごく注意深く見ていました。

基本的にかなり量が多いように感じました。

もちろん全部食べなくてもいいので、残す人も多いですが、私でも、この量は食べたくないなと思うくらい多く感じました。

そして量も食事の頻度も多い。

  • 朝食
  • モーニングティー
  • 昼食
  • おやつ
  • 夕食

とがっつり5食あります。

モーニングティーは軽めですが、おやつの時間は、祝日などのイベント時には結構豪華なデザートがたくさんふるまわれることもあり「絶対糖分と炭水化物摂り過ぎだろ」と常に思っていました。

常駐ではないにしろ管理栄養士が一応見ているはずなのに、、、(ここが病院とは違うところなのかな)

また結構立派な厨房があり、全ての料理は食材から作っていました。

もちろん一部できあいのものもありますが、基本は調理をして、ケーキなどもオーブンで焼いていました。

実際、毎日似たようなメニューですが、肉や魚、野菜など昼食、夕食ともに2-3種類からチョイスできます。

認知症後期になると、その選択肢も少なくなるので強制的に毎回同じ料理構成になります。

もちろん人によって、歯があったりなかったり、消化状況も違うし、アレルギーなどもあるのでぞれぞれに合った料理を与えます。意外と「おいしそう」と思うものも多かったです。

私たちスタッフは、Residentの食事が終わってから自分のご飯を食べるので、若干お腹が減っているためか、より一層おいしく見えます。

たまに、配膳される料理を味見しましたが、全然まずくはなかったです。普通においしいと思いました。

また、だれでも書けるノートがおいてあり、料理が美味しいといったコメントも書かれていました。

でも毎日似た料理なので、飽きるとは思いましたが、定期的に住居者も含めた料理ミーティングがあるらしく、そこでメニュー変更もするみたいです。

まあ、イメージとしてはホテルに泊まった時にあるようなブッフェ(各自好きな料理を取り分けて食べる)のちょっとレベル低いバージョンなかんじです。

ちなみに、実際に住んでいる人はもともと高所得の人が多いっぽく、結構頑固でわがままな人も多いです。(たまにイラっときます)

認知症後期以降(レベル4・レベル5)の人の場合、メニューが限られるので料理に楽しみは無く、身体の消化器官の循環、咀嚼機能維持のためや栄養補給のために食事しているだけです。

ただ、皆さん甘いものは好きらしく、ジュースやヨーグルトやアイスなど、料理は食べるのを拒否しても、デザートだけは食べる人もたまにいます。

でもこれも栄養的にはどうなのかと疑問はあります。(もちろん、食べた量は詳細に報告します)

実際、人によっては30分以上かかけてスプーンなどを使って食べさせてあげるのですが、90歳くらいの認知症の方とかは、途中で寝るので、大声上げて名前呼んで起こして、食事を与えて、また眠って、みたいなやり取りで、若干コントしているようで面白かったです。

年齢は70歳以上がほとんどで、100歳越えも若干名いました。

どれくらい食べたか、また日常のシャワーや着替え、歯磨きなども含め、一人一人その日に何をしたのかをiPadのアプリ上で記入する項目があり、時間が空いているときに、その項目を埋めて誰もがチェックできるようになっています。

そして、それをみたら状況がすぐわかるので引き継ぎも簡単です。

職場のスタッフの身体の管理も徹底

基本、寝たきりの人をベッドから車いすに移動する時はHoist(Lifter)と呼ばれる機械を使うのは必須です。

またベッドも自動で動かせるものしか置いてないので、ベッドメーキングする時なども必ず腰を曲げなくてもいいように高い位置にセットしてから仕事をします。

働くスタッフの健康や体の管理を徹底して守っています。時間帯に関してもよほどのことが無い限り残業もないので、スタッフが無理して体を壊したという話はほとんど聞きません。

寝たきりの人を対応する時は、少なからず体力仕事ではありますが、仕事時間の大半は椅子に座ってIpadで情報整理したり、Residentと話したり遊んだりしているので(特に下っ端の介護士の場合)、飲食出身の私的には体力的には超ラクだと思いました。

集中して忙しいのは朝、そして夜、その次にお昼です。

こんな環境です。今回は研修でのおおまかな流れだけを話しましたが、次回はもう少し踏み込んだところも話そうと思います。