出し汁をとる、ひく ~和食の基礎・土台となるうま味~

料理、特に日本料理を作る上で出汁(だし)は大切です。出汁は、「出汁」という表記の他、「だし」「出し」「出し汁」など人によって様々です。

また、ここではあえて、出汁を「作る」という表現もしていますが、本来「作る」のではなく、「ひく」「とる」などの言葉で表されます。『取る』と『引く』 どちらも余分な物を取り除くって意味です。

『出汁を引く』とは『素材の旨味を引き出す事』であるともいえるでしょう。また、「出汁をとる」と「出汁をひく」を使い分ける場合、すべて抽出する場合は『出汁をとる』といい、必要な分だけ抽出する場合、つまり雑味が出る前に引き上げるときは『出汁をひく』という。このような捉え方もあります。

*ちなみに、煮物などをするときに出るアク(灰汁)も、『灰汁取り』(あく取り)とも『灰汁引き』(あく引き)とも言います。

出汁は、料理の美味しさの明暗を分けます。しかし、「だし」と言っても、ものすごい種類があります。

世界で見ると、フランス料理のブイヨンやフォン、中国料理の湯(タン)、干しアワビのだし、日本料理でも、カツオと昆布だし、煮干しやいりこだし、干しシイタケだし、野菜の出汁や、トマトのだしなどもあります。つまり、基本はどんな食材からも“だし”は取れるもので、最近で珍しいものでは、土のスープや、木のクズから取るだしなんてものもあります。

おそらく、今後も、昆虫のだし、発酵食品系のだし、微生物のだしなど、想像もつかない「だし」が出てくることでしょう。

その中でも、今日は、日本料理の定番となるこんぶとかつおだしについてお話しします。

ただ、グルタミン酸がどうの、イノシン酸がどうのこうのなどのそこまで小難しい話をするわけではないのでご安心ください。

和食の基本となる“だし”

まずだしの重要性は、日本人であれば、味噌汁を作る時にわかります。お吸い物や茶わん蒸しなども出汁の味がポイントですね。だしを取る時に、家庭では、顆粒の化学調味料が入っただしを使う方も多いと思います。

もちろんそのような簡単な“だしの素”でも添加物が入っていない、お手軽に取れるものもあります。これらは、“うまみ”の要素がふんだんに含まれているので、だしそのものを飲んでも、うまいと感じます。

私は、子供のころ“出汁”そのものの存在を知らなかったため、初めて自分ひとりで味噌汁を作ったとき、「なんだ、このマズイ味噌汁は」とショックを受けたことがあります。なぜなら、出汁を取らずに水と味噌だけを入れて作っていたからです。

当時は、だしの存在を知らなかったので、“だし”というものを知ったときは、かなりの衝撃でした。

実際のところ、あなたもお気づきかもしれませんが、出し汁そのものを飲んで、“うまみ”を感じることはありますが、そこまで「すごく美味しい」とは思わないはずです。

たしかにうまいです。しかし、うまみというのは、それだけで効果を発揮するわけではありません。

昆布とかつお節のだしは、その時点でうまみの相乗効果をもたらしていますが、もっと、さまざまな組み合わせによって、相乗効果が起こるのが“うま味”の特徴です。

うま味は、味覚の中で甘味、酸味、塩味、苦味に次ぐ5番目の味覚です。うまみ以外の4つの味は、それ単体でも、がっつりとインパクトのある印象を残しますが、こと、うま味に限っては、

『うま味+何かの味』を合わせないと、うま味の持ち味が生かされないことが多いです。

味噌汁もそうです。味噌だけでは塩辛い、出汁だけでは物足りない。しかし、その2つを合わせると美味しくなります。味噌だけではなく、だし汁(うまみ)に塩を少し入れるだけでお吸い物になります。

その他、甘味や酸味を足すことで、三杯酢など、酢の物で使えるような甘酸っぱいお酢ができます。野菜や魚を煮たりするときも、出汁を使うと、うまみは増します。

愛情料理は“ひと手間”をかけることが大事だと言いましたが、汁もの、焚物、ソース系を使う料理を作る上で大事なひと手間は、“出汁を取ること”です。

簡易だしを選ぶ時の注意点

個人的には、原材料表記に「うまみ調味料」と書かれているものは、お勧めはしません。

理由は、これらは化学調味料・添加物であり、その「うまみ調味料」を身体に入れることによって、アトピーが悪化したり、頭痛や顔面紅潮、体のしびれが起こると言われています。というかたくさん摂取すると、のどが渇きます。食後感も胸やけのようなイガイガ感があります。

ただ、添加物が入っている食事ばかりしていると、その感覚はマヒしてくるので、わかりづらいです。

化学調味料を使った場合、料理の味そのものは美味しく感じますし、食材費も安くすみます。しかし、料理屋のように、鰹節を削って、昆布を軽く洗って一日干して、こんぶは一晩水につけて、鰹節は削りたてを60℃~70℃のお湯に入れて、(一番鰹節の味が出やすく、苦味なども出にくい温度帯)

1時間その温度を保持して、きめの細かいネル地のだしこし布やペーパーを使い漉す。

なんて、面倒なことはする必要はありません。

こんぶと鰹節を買ってきて、鍋に水を入れ、昆布を入れ、沸騰したら鰹節を入れて、火を止めて、鰹節が鍋の底に沈んできたら、ザルで漉す。これで十分ですし、今では、うま味調味料の入っていない、無添加の即席で取れるパックのだしの素も売らているので、そちらの方が効率よく、かつお節や昆布を使うより、コストも安く済みます。

液体のだしの素もありますが、原材料表記を見て買うようにしてください。

うまみ調味料は、グルタミン酸ナトリウムや化学調味料という表記はせずに「調味料(アミノ酸等)」と書かれていることが 多いです。

以上のように、昔とは違って今は、出し汁を作るのは便利で簡単です。そして効率よく安全な出汁を作ることができます。

注意点として、すべての料理に昆布かつお出汁を使って料理を作る、つまり、一方向の“うま味”だけで料理を構成すると、どれも似たような味になってしまうこともあります。

同じだしを使って、沢山の料理をつくるのは良いですが、昆布とかつおだけではなく、干しシイタケや魚介類などの出汁も用意したり、その他の4味である、甘味、酸味、塩味、苦味のどれか要素を強く出すことで、料理の差別化ができます。

また、こだわるのであれば、こんぶや鰹節はどの産地、どの部分を使った方が良いのか?など、それぞれの料理や調理法によって産地を使い分けることもあります。それを話すと終わりそうにないので、ここまでにしておきますが、

ちょっとしたひと手間、これがただ単に「おいしい」味だけでなく、落ち着く味、また食べたいと思う味、安心できる味として、体も心も癒される料理を作ることができるようになってください。

もちろん、日本料理の場合は、醤油やみりん、酒などその他の調味料も準備しなければなりませんが、揃えていくうちに、どんどん料理が楽しくなってきます。なぜなら、色々なバリエーションで、自由自在に料理を変化させることができるからです。

それでは、これからは出し汁をちゃんと取って料理を作るように心がけてみましょう。