どっちの調理法 第1回『玉子焼き』対決

今回のテーマは『卵』です。これほど汎用性があり、多種多様な料理を生み出す食材はありません。そのたくさんの料理のなかでも、今日は『玉子焼き』の調理法について考えてみます。

最初にお伝えしますが、これから伝える調理法の「どちらが良い」と思うかはあなた次第です。目的と理由によって変わるということを忘れないでください。

正しい間違いはありません。ある意味状況によってはどちらも正解でどちらも不正解となります。

第1回 どっちの調理法対決 玉子焼き

*『卵』と『玉子』の文字の使い分けですが、私の場合は調理前のものを“卵”、調理された後のものを“玉子”という文字で書き換えております。

玉子焼きの記事はしっかりとく?OR卵白の固まりを少し残す程度にとく?、、、どっち!?

卵の溶き具合についてです。「あなたの作る玉子焼きはどっちですか?」

私は“しっかりとく”派です。理由は、溶いた卵を網目の細かいザルで漉すので、溶きが荒いと漉しにくい。というのが一つの理由。

もう一つは、出来上がりの見た目のムラを無くすため、全体に均一に食感を残したい。そして形も均一にしたいという理由からです。

私のだし巻き玉子は、懐石料亭(本吉兆)での修業時に習得したもので毎朝6時ごろから約30~50人前のだし巻き玉子を3年間巻いていました。スピードも求められるため、だし巻き鍋を2つ同時に使って巻いていました。

さて、「しっかりとくのかどうか?」についてですが、だし巻き玉子をつくるのか、だしの入っていない玉子焼きを作るのかによっても「ちゃんととくか、とかないか」が変わってきます。私自身、だし巻き玉子ではなく、家で作る卵と砂糖だけの玉子焼きを作る時は、ちゃんととかないです。

その理由は、「ときすぎると卵本来の“こし”が無くなり、巻きづらくなる」から、そしてスピードと簡素化です。

家では、お箸で卵白を切るようにときほぐしますが、卵白の固まりが少し残る程度にほぐします。この場合、漉し器でこしたりはしません(面倒なのもあります)。また漉せばキレイな見た目均一の玉子焼きに仕上がりますが、玉子焼きがちょっと巻きづらくなります。

卵のとき方

玉子焼きはときかたによって、仕上がりが変わります。ポイントは「どれくらいとくか」「空気を入れるか入れないか」の2点です。

とく程度は、十分にとくと仕上がりは均一になります。逆に足りないと卵白と黄身が分かれ、むらのある仕上がりになります

・よくとく場合⇒茶碗蒸し

・あまりとかない場合⇒親子丼

*玉子焼きの場合は先述した通り目的や理由によって変わる。

親子丼は黄色と白がまだらになっている方がおいしそうに見えますし、卵白のツルっとした食感も親子丼の美味しさのポイントになります。

次に、空気を入れるか入れないかについてですが、卵は空気を含めやすい性質があります。

・空気を入れない方がよい場合⇒玉子焼き、茶碗蒸し

茶碗蒸しは空気が入ると“す”が立つ原因となりますし、玉子焼きは空気が入ると巻きにくく形が整いにくいです。

・空気を入れる方が良い場合⇒オムレツ

オムレツはふっくらと焼き上げるため空気を含ませるように焼きます。ちなみに空気を含ませて混ぜても、時間が経つと空気が抜けます。

ところで空気を入れる混ぜ方と空気を入れない混ぜ方とはなんでしょうか?

菜箸で混ぜる場合、箸を浮かせながら混ぜると空気が入りやすくなります。逆に箸をボールの底などにつけたまま前後左右に混ぜると空気が入るのを少なくできます。

だし巻き玉子は、出し汁以外でも美味しく作ることができるのか?

答えは「Yes」。だし巻きの“出し汁”以外を使うとどうなのか?

実は、出汁でなくても牛乳や水で代用しても良いです。(だしまきとは呼ばなくなりますが)

<牛乳>

だしのかわりに牛乳を入れると、うま味の強い玉子焼きを作ることができます。生クリームやマヨネーズを少量入れるやり方もあります。同様に味が濃厚で、ガツンとくる美味しい玉子焼きができます。

<水>

出汁ではなく、水でも良いです。水にすると、卵本来の味が生きてきます

ちなみに卵と水分の割合は、だいたい卵2個(計100g)に対し、30~50ccの液体です。液体の量が多いほど巻きづらくなります。

・30ccだと巻いたあとも汁がでにくいので弁当などによいでしょう。

・50ccは作ってすぐ出す食べる場合に良いです。

卵の大きさにもよるので、液体の分量は色々試してみてください。出汁か牛乳かによっても液体の分量は変える必要があるので、あくまで目安です。*牛乳の中のカルシウムやマグネシウムは凝固力を強める作用があるので固まりやすくなります

これらをもとに分量を変えて作ってください。

火加減はどっち!?

難しいのが火加減。家庭では火力が弱いのでガンガン強火で良いと思いますが、レストランの調理場は火力がかなり強いです。

“基本強火”なのですが、あまりにも強い火力ではかなり熟練の達人でない限りうまく巻けません。(玉子焼きなのかだし巻き玉子なのかによっても巻きやすさは変わってきますし、“巻き方”にもよります)

ただ、ダメなのは『弱火』です。巻きづらいし時間もかかります。しっかり凝固しないし、味もよくありません。

厚焼き玉子とか寿司屋で出るような玉子焼きを作る時は、ごく弱火で作る場合もありますが、これらは“巻く”目的ではないため。弱火で大丈夫なのです。“巻く”玉子焼きの場合は必ず中火から強火で巻きましょう。

また、卵液を入れる時の鍋の温度も重要になってきます。

私は、鍋を火にかけ、油を薄く引いて(リードペーパーなどのフワフワの紙に油を吸い込ませ、うすく鍋に引く)、鍋の温度がよいくらいなってきたら、鍋を耳の近くまで上げて、耳で温度を感じます

たまに手をかざして温度を判断するかたもいますが(多いです)、耳の方が温度にもっと繊細です。だから耳です。鍋から発せられる熱量を耳で感じて、頃合いを決めます。なんどかやってみれば、感覚はつかめると思います。

ちなみに一般人は手でも良いと思います。私の手は、修業時代に荒れまくってゴツゴツなので温度の感覚が鈍くなっています。

串揚げ屋で修業していた時に160度以上の油で揚げた串を素手で持って、すぐにお客さんに提供していたので、その時期にかなり手の感覚が悪くなりました。(おかげで熱さにはめっぽう強い手になりましたが)

差はありますが、料理人はだいたい手が分厚いと思います。なので、鍋の温度を測るときは、“耳”なのです。

*注意点として、鍋に油を多く入れすぎると、鍋を耳に持って傾けたときに熱い油が滴り落ちてやけどするので、最小限の油をしいて垂れないようにしてください。

その他、温度を見る方法として多いのが、箸に少しだけ卵液を付けて、鍋にさっと付けてみます。その時の火の通り具合やジュっという音で判断をします

温度が低すぎると玉子焼き出来上がりの表面のきめがあらく、食べると油臭さが残るので注意してください。また焼く時は油の量が多いと、卵がズルズル動いて焼きにくいです。

だし巻き鍋はどっち!?

だし巻き専用の鉄鍋が理想です。100均で売っているような安いものでも作れますが、耐久性と持続力はありません。料理屋のように一日何十本も巻く場合は、ちゃんとした“だし巻き鍋”を使います。

鉄鍋を使う場合、油を鍋全体になじませるため、『油ならし』をします。これは初めてだし巻き鍋を使う前に準備するもので、鍋全体に油をたっぷり注いで火にかけます。そして冷ます。を何度か繰り返します。

鉄鍋に油をなじませることで、卵が鍋にくっつきにくくするためにやりのです。これをしないと卵がくっついて、いつまでたっても形よく作ることができません。そして多くの人は、鍋の油ならしに気を取られがちですが、もっと重要なことがあります。

それは『鍋の持ち手の角度』です。

鍋って普通、柄の部分の持つ部分は鍋に対して170~180度くらいですが、だし巻きの場合、ある程度柄に角度がないとひっくり返しにくくなります。柄に角度が無いと、だし巻き鍋をほぼ垂直に傾けなくてはならなくなり、それだとかなり巻くのは難しくなります。

家庭では、焦げ付きにくいという理由からフッ素加工樹脂とかテフロン、ステンレスの巻き鍋を使う人もいますが、これでは逆に玉子焼きがすべってしまい巻きにくいので金属製のものをおススメします。

油を入れて熱しすぎた時の対応

煙が出てくるくらい熱してしまったら、水などに付けずに(常温か冷たい)油を注いでください。温度が下がります。また調理中に鍋が熱くなりすぎたと思ったら、濡れ布巾を横に準備しておき、鍋の底を塗れ付近に付けて冷ましてください。

焼くポイント

卵の凝固温度は80度です。余熱で固まってくるため、巻いている時は形を気にするより、焼き加減に集中すること。できた後は“巻きす”で形を整えると良いでしょう。また“火の出どころ”もちゃんと見てください。

火がちゃんと鍋全体が熱くなるように出ているか?コンロの外側しか火が出ていなかったりすると内側の温度が低く、くっつく原因となります。鍋全体が均一に熱くなるように鍋を動かすなりして調整してください。

 

以上、玉子焼きの巻き方についてもまだ言いたいことはありますが、今回は理論編ということで説明しました。わからないことがあればいつでも質問受け付けます!