和包丁で切るときに意識すること ~表と裏~

和包丁について少し違った角度からお話します。洋包丁は両刃ですが、和包丁は片刃です。世界中見ても、この片刃包丁って日本くらいではないでしょうか?今回の話は片刃包丁を使っている人は、興味深い話だと思います。

和包丁が右利きが多い理由

和包丁というのは、基本右利き用に作られます。もし左利きの人が和食の料理人になろうと修業するのであれば、先輩に「包丁は右利き用で使うように」と指導されます。(だいぶ今はその風潮は無くなってきましたが、、、)

<理由1>値段

日本人はほとんどの人が右利きである(昔の人は右利きが多かった、または右利きに修正される)ため、作られる包丁も、当然右利き用に作ったものがほとんどで、そして、左利き包丁は注文が入ってから作るので、値段の面からしても、高くつきます

ただでさえ、ちゃんとした和包丁は数万~数十万するのに、安い給料の料理人には左利きというだけで、出費が多くなります。

<理由2>調理場、仕事の流れ

調理場の配置によるものです。

これもキッチンは基本、右利きの料理人がメインで使うように、テーブルや設備など配置されているので、左利きの人にとっては使いづらいのです。

安全面からでも、調理場によっては、狭い厨房で向かい合って包丁を使い切りものをするので、左利きの人がいると包丁同士が当たったり、へたすると、相手の手を切ってしまいかねません

プロの包丁はメスのようにさくっと切れるので、勢いが良ければ、簡単に指一本くらいは落ちます。私の知り合いでも、不注意で手を怪我して、筋を切ってしまい指が動かなくなった人もいます。かなり危険です。

包丁を持っている先輩の後ろを通ろうものなら、蹴り飛ばされたりしました。なので、先輩が包丁を持っている場合は遠回りで動かなければなりません。そんなスペースもなければ、タイミングを見計らって、大きな声で「うしろ通ります!!!」といって通るしかありません。

、、、ちょっと左利きと脱線しましたが、たった左利きというだけで、不都合が生じるのです。特に包丁がとても頻繁に使われる日本料理においては、料理を教えるときも、説明がしにくいのです。

 

さて、ここまでは、なんとなく納得できると思いますが、実は、次の3つ目の理由が日本料理において一番重要です。左利きの包丁を使わない理由がはっきりします。

それは陰と陽が関係します。これを聞いてピンと来た方は、素晴らしいです。

<理由3>陰と陽

日本料理というのは、中国から来ている陰と陽に関係が深いのですが、これをかなり重要視します。市松模様など、白色があれば黒色があるように、料理にも正反対のものが使われたり、意識されたりします。盛り付けの高低や色や形のバランスも、大きく言えば、陰と陽が関係しています。

これを知っているかいないかが、レベルの高い料理人かそうでないかを分けると言ってもよいかもしれません。ちなみに歴史のある高級料亭で働いたら、おそらく自然と学ぶことはあるでしょう。

さて、包丁の話に戻りますが、「包丁の陰陽とはなに?」と思われるかもしれませんが、包丁にとって、右利きの和包丁の右側(斜めになっている方)が陽、そして左側(まっすぐの面)が陰です。

つまり、包丁の研いでいる面(=砥石で包丁の右側を砥ぐことでエネルギーが伝わる)で食材を切ることで、切り分けた食材の右側をお客様または神様に出すものとして、大切にされます。

全部の切り方がそうではないですが、たとえば、盛り付けなども、包丁の右側(斜めの面)に付いていた食材の面を、お客様の方に見えるようにして盛りつけたりします。

が、、、かといって陽がGoodで、陰がBadという話ではないです。

ただ左利き用の包丁を使うことは、たったそれだけで“場の乱れ”が生じてしまうのです。そのため、ちょっとした場の乱れが料理に影響し、さらにはお客様にも伝わってしまうといけないと考えるからだと思います。

左利きはダメといっているわけではなく、もしそのような逆の性質をもつ物事が存在する場合、それに適応した場の流れや配置などを変えてみることも一つの方法です。

陰と陽は、お互いがバランスよく存在して、はじめて調和が保たれますからね。

例えばお造りの場合で、そぎ造りの鮃と平造りの縞鯵などを同じ器に盛り付ける場合は、陰と陽との関連性が成り立ちます。色使いや、貫数なども同じく陰陽五行などに関係してきます。

造り (3)

ここまで考えて料理をしたり、切りつけ盛り付けをしている料理人は数少ないでしょうが、これらのことは知っているか知っていないかでも十分変わってきます。

少しでも意識していれば、それが伝わりますし、同じレシピの料理でも、「なぜかわからないけど、あの料理人が作った方がうまく感じる」などといわれるのは、それだけ、その料理人にどれだけの経験と知識があり、どのように感じ思って料理を作っているかの違いが、目に見えないエネルギーとしてお客様に伝わります。

料亭と呼ばれるところや、お茶事なども意識した料理を作っている料理屋、料理だけではなく、文化や背景も重んじた演出や料理を提供している店で働いていた方は、おそらく、修業中に無意識にこの陰陽の感覚が身に付いている場合が多いです。

ただその人が、「陰陽が関係しているんだよ!」と説明できるかどうかは別として、感覚的に、パッと料理の盛り付けを見たときなどに違和感を覚えたりします。

そして、このような背景も踏まえて、それが“エネルギー”と表現されるかもしれませんし、“愛情”かもしれません。“元気になる料理”と呼ばれるかもしれません。

とらえかたは人それぞれですが、どれだけその料理に対して、その作り手のエネルギーや背景、バックグラウンドや、生産者に感謝したりして作っているか等が重要になってきます。

そんな日本料理だからこそ、昔の人は左利きを直してまで、右利きの包丁を使わせる理由はそこになるのではないでしょうか?

ちょっとマニアックな話になってしまいましたが、料理を作る時に意識して見て下さい。

ということで、今日は和包丁を使って料理する時にこの話を思い出して作ってみてください。

 

追加記事:料理と包丁と陰陽五行と風水の関係 http://wp.me/p50ahn-1iK