意外にわかっていない食材・素材の洗い方 ~料理の基本のキホン~

意外に見落としがちで、プロの一流料理人でもちゃんと説明できる人が少ない、料理の基本でもある“洗い”についてです。とても基礎的な部分で、当たり前のことでもあるのですが、結構知らない方も多いのが事実です。

食材の洗い方

食品の汚れを落とすのは、どのような調理過程の中でも一番初めにあるもので、あまりにも当たり前すぎて、しっかりと根拠も含めて解説しているレシピは多くありません。

大体の場合、レシピ上には「まずは人参を洗う」とかすら書かれません。しかし、この洗うという仕事は、調理の出発点として、とても大事な仕事なので、ここでもう一度、この“洗う”意味を考えてみましょう。

「洗う」ポイントってなに?

加熱をしない料理はあっても、洗うことが全くない料理はありません。もうすでに加工されているものは別として、野菜でも魚でも肉でも、最初の処理の工程はまず洗うから始めます。

食品を洗うのは単に“安全”が目的だけではなく、色や味を良くして美味しくいただくために重要な仕事です。

水の量と回数

例えば、目の前に汚れのついた食材があるとします。それを

A:10リットルの水で1回だけ洗う

B:5リットルの水2つに分けて2回洗う

C:3リットル位の水3つに分けて3回洗う

この3つの中では、Cの3リットルで3回洗うのが、一番汚れを排除しやすいです。なぜなら、同じ水の中では、落ちた汚れが滞留してしまい、いくら洗ったとしても、ある程度の汚れは食材に付着することになります。

しかし、2回3回と水を新しく変えることで、最初に落ちた汚れは、1回目である程度は落ちるので、2回目以降は、よりきれいになります。大きなおけやボールに水を貯めて、そこに水を流しながら洗う人がいますが、これはNGです。

なぜなら、いくつかの汚れ(野菜の場合、土や砂など)は下に沈むため、流水してキレイな水に入れ替えているようでも、いつまでも下の方には汚れがたまっている状態なので、汚れた水の中で洗い続けるようなものです。

ちなみに桶やボールに水を貯め、そこに水を流しながら洗っても、その水が完全にきれいになるには20~30分かかります。

そのためにも、何回かに分けて水を新しくして洗うのが良いですし、できれば最後は、流水に当てながら汚れを落とすのがしっかりと汚れを取り除くことができます。

ただオイスター(牡蠣)などの傷みやすい食材の場合は、直接、強い流水を当てるのではなく、間接的に水を当てたり、弱い流水でちょろちょろと流す程度の水量で洗うようにしてください。

そして、サラダなどの重さの軽い野菜(水に入れても浮いてくる食材)を洗う場合、水がいっぱいのところでよく洗い、すくうように取り出し移します。

よく見かけるのが、ボールの水ごとザルに流して水切りをする人。これだと、せっかく下にたまったゴミや砂などもザルに少し残ることになるので、あまり意味がありません。

キノコ類の洗い

少し例外で、キノコ系は、水の中や流水で洗うと傷みが早くなり、悪くなりやすいので、水で濡らして固絞りした布巾やペーパーなどで、周りの汚れをふき取る程度にしてください。

卵の洗い

洗ってはいけないものに“卵”があります。もちろん茹でたり、割る直前は洗いますが、水で洗ったあと、冷蔵庫に保存するのはよくありません。

なぜ卵は洗ってはいけないかというと、卵の殻には気孔と呼ばれる目に見えない小さな孔(あな)があります。生きている卵はその孔を通して呼吸をしています。

そして、殻はさらに“クチクラ層”という薄い膜で覆われ、その膜は、殻を通して微生物が入るのを防いでくれるのですが、水で洗うことによって、そのクチクラ層が表面の汚れと一緒に剥がれ落ちて、気孔がむき出しになることによって、水分や二酸化炭素が外に出てしまい、卵内部のバランスが崩れ、卵が死んでしまいます。

さらに、むき出しになった気孔から微生物が侵入し卵が腐りやすくなるため、水で卵を洗って保存するのはよくないのです。

野菜を切ってからも洗う理由

野菜を切ってから水で洗うのは、汚れを落とすという理由よりも、えぐみ、渋み、苦みを発生させる“アク”を取り除くのが目的です。

特に、火を通して食べるような、ゴボウ、レンコン、ジャガイモ、ホウレンソウ、タケノコ、ゼンマイ、ワラビなどアクが強い野菜は、切ってから水に浸したり、洗ったりすることでアク抜きの効果を高めます。

実際これらの野菜は、切った後に水にさらしても、ほとんど味を損なうことはないです。

果物は切ってから洗わない

果物の場合、切った後に変色が起こりやすいものが多く、切り口から味や香りが逃げたり、生で食べることが多いため、切る前に洗うだけの場合がほとんどです。

洗う目的ではなく、変色を防ぐために、また味の流出を防ぐためなどで、塩水につけたり、シロップに漬けることはあります。

肉と魚の切り身の場合

肉や魚の切り身の場合は、洗うと味が落ちるので、基本的には水で洗いません。

表面が汚れている場合、焼いたりして加熱するものであれば、ペーパーなどで汚れをふき取るていどで、生で食べる場合は、直前に水や塩水やお酒(日本酒)でさっと洗ってから切ります。

洗う条件

洗うのは、食材の表面についている汚れや微生物を取り除くのが目的のため、いくつかの条件下で洗う食材なのかどうなのかを判断してください。

1:表面にひだ(凹凸)が少ない

2:表面がカタく水が浸透しにくい

3:汚れが水に溶けやすい

4:汚れが食品に強く付いていない

この上の条件に当てはまる食材は、それぞれ食材に適した洗い方をしてください。

魚を洗う時に塩水を使う理由

魚や貝を丸ごと洗う時は、塩水を使うと良いです。水で洗ってもよいのですが、塩水の方がより良いです。理由は、魚や貝を洗う目的は、主に表面のぬめりを落とすことです。

ぬめりは魚体を守るためにあるのですが、細菌や汚れ、なまぐさみなどは、このぬめりの部分に多く吸着されています。そして、ぬめりは水には強く、簡単には落ちませんが、塩水にはとける性質があります。

魚の場合は、海水程度の濃度(2~3%)の食塩水で洗い、貝のむき身などは塩水の中で洗うようにしましょう。また魚介類だけはなく、イチゴなどの柔らかい果物も、塩水で洗っても大丈夫です。

 

以上、食材を洗うだけのことを取り上げてもこれだけお伝えできることはあります。また、『50度洗い』というものもありますが、そちらは、色々な方がネット上で検証して情報を書かれているのでそちらを参考にしてください。

次回は“洗いの番外編” さまざまな食材を調理後に水で洗う、流水にさらす場合の『洗い』についてお話しします。

あなたの知らない料理の過程(調理工程)での“あらい”