熟成という言葉は、実はこれと言った細かい定義がありません。どうなれば熟成なのか判断の基準が難しいのだと思います。熟成肉、ドライエイジングという呼び方はだいぶ普及していますが、もともと、チーズや納豆なども熟成です。
フルーツも熟す、熟れると呼びますし、ある食材を、食べられる状態からさらに期間をおいて、より一層おいしく食べることを熟成と言います。バナナも真っ黄色よりも、少し黒みがかってきた時が甘くておいしいですし、熟成(黒)ニンニクもあります。
フルーツに関しては、一般家庭でも、熟成(熟れる)タイミングを見計らって食べます。ただ、肉に関しては衛生面などの管理が難しいため、一般家庭には浸透されにくいですし、それに見極めるタイミングも難しいですし、野菜やフルーツに比べ値段が高く、一歩間違えれば腐って捨ててしまうことになるのでなかなかできないです。
では魚はどうか?というと、魚も同じく“熟成”と呼ぶかどうかは別として、一番おいしいタイミングがあります。貝類やイカ・タコなどは、新鮮なほどおいしいですし、魚も卸したては身がピチピチしていて良いのですが、旨みという面から見ると、
例えば、鯛などはさばいてから7~8時間たった時が一番旨みがでたり、甘エビなども一度冷凍するから甘く感じ、活きの良い甘エビを食べてもそこまで甘く感じなかったりします。ですので、すべてが採りたて、新鮮が良いかというとそうではないのですね。
さて前回のつづきの熟成肉の話しに戻ります。前回の話を読んでいない方はこちら 肉を美味しく健康的に ~熟成の種類 ~
ドライエイジングの3ポイント
◆ポイント1:低温を保つことで腐敗を防ぐ
悪い菌は4℃以上で増殖します。食中毒菌が好む温度帯が4℃以上です。ですので、ドアの空き閉めなどによる温度変化には十分注意する必要があります。ほとんどの熟成庫では、0℃~1℃で設定している場合が多いです。そして、熟成庫を冷蔵庫の中に設置しておけばより温度の変化が無く安全でしょう。
温度計を数か所に設置してチェックするという方法もあります。
0℃~1℃は、食中毒菌は増えず、熟成に必要な低温発酵菌であるカビ酵母は増える温度帯です。ドアの空き閉めによる温度の変化だけではなく、雑菌の侵入にも気を付けなければなりません。
◆ポイント2:湿度を保つことで、水分を適度に保ちながら適度に抜くことができる。
水分を抜くことで旨みを凝縮させることができます。ただ、完全に水分を抜くとジャーキーのようにカラカラになってしまうと同時に旨みも抜けてしまうので適度な湿度を保つ必要があります。
この保湿には、肉から発生する水分を調整する方法と熟成庫内を加湿する方法があります。乾燥させるだけなら旨みは凝縮しますが、柔らかくはなりません。ポイントは“必要以上に水分を抜かないこと”です。
湿度は、85℃~95℃に保つところもあれば、70℃前後だったり、または、最初は温度、湿度とも0℃で、徐々に上げていくという熟成方法のところもあります。(*湿度88%に高めると、カビ酵母由来のカビが増え、育ちやすい環境になります)
温度と同じく湿度も、熟成庫内の上と下で同じになるようにすることが大切です。
◆ポイント3:熟成時間を見て進行度合いを見極める
肉の状態で、熟成期間は前後します。屠畜して1週間まではタンパク質が変質し、肉の温度が下がり硬直が解ける期間で、2週間目くらいからは肉が柔らかくなります。
熟成の順番としては、
- 柔らかくなる
- 旨みが増える
- 香りがつく
の流れです。ですので、最低でも2週間から3週間は置かないと熟成されないです。もちろん、その時には熟成庫内にも熟成香が広がり、それが肉に付着し中に浸透します。つまり、“熟成香を強くしたい”場合、30日など長めにおいておくなどの調整をします。
その他では、部位や大きさや、好みにより期間を変えます。店によっては、熟成期間を6~7週間とっているところもあります。
熟成の見極め3ポイント
1:触感(柔らかさ)
2:カビの生え方(最初は全体的にうっすらと白くなり、徐々にふさふさした白いカビになる)
3:脂の質の変化
この3つで判断します。熟成か腐敗かの見極め方は、
・肉から発生するにおい
・表面のねばり気
これらが出てしまった場合、廃棄しなければなりません。難しいのは、熟成は菌の発生を伴うため、肉の菌の数を測定するだけでは判断できないことです。良い菌である酵母などであればいいですが、食中毒を起こす大腸菌やブドウ球菌などの悪い菌は問題になります。ただ定期的に菌数のチェックはした方がよいでしょう。
ドライエイジングで気を付ける5つの条件
環境を一定に保つ
これは前述したとおりです。温度と湿度を一定に保ちましょう。
熟成庫に色々な種類の肉を入れない
例えば、牛と豚の菌は別物で、またそれぞれ繁殖する温度帯も違います。だから、同じ熟成庫に入れるのは良いとは言えません。また、お互いの香りも影響しあってしまいます。
ただどうしても、スペースの問題などにより一緒に入れる場合があるのであれば、悪い菌が増えない0℃~1℃を保ち、必ず加熱処理をすれば、火を通すことで大腸菌も死滅します。
大きな塊で熟成
<枝肉で熟成の利点>
細胞が壊れず、ドリップもほとんど出ず、通気も良く、腐敗も起こりにくいです。さらにロスも少なく、歩留まり率も良くなります。
<部位別で熟成する利点>
熟成期間の短縮ができます。
熟成肉にする肉なのかどうかを事前に決めておく
枝肉等の場合、屠畜後に、肉の芯をしっかり下げてからドライエイジングする必要があります。その理由は、牛の場合、屠殺直後の体温は36~38℃と高いので、中が温かい状態で入れると熟成庫内の温度を高くする原因となるので気を付けなければいけません。
輸入肉は骨付きを選ぶ
海外からの肉で、現地で真空パック、冷凍され、船便で1カ月ほどかけて届く場合、中の菌はほぼ無いに近いでしょうが、菌が0の状態からドライエイジングすると、菌を発生させる所から始めなければならないです。
しかも、真空から開ければ、酸化と腐敗が始まりますので輸入の場合、骨の付いた状態で、軽く袋詰めされた空輸のものが良いです。
赤身の肉は和牛よりドリップが出やすいのが特徴です。真空は圧力がかかり、肉の細胞がくずれさらにドリップが出やすくなるので、真空パック以外が良いですが、今度は逆に衛生面が気になるので海外からの輸入牛はなかなか難しいかもしれません。ちなみに骨無しは、現地で骨を外す際に肉の繊維が傷み、ドリップが出てしまうのでおススメではありません。
以上、ドライエイジングの注意点や見極めポイントでした。次は、熟成肉の疑問に答えます。
次回記事 熟成肉のヒミツ 質問集Q&A