日の丸弁当に入っている梅干しの底力と日本人の知恵

日の丸弁当という名前を聞いたことも食べたこともない世代が出てきている世の中になってきている今、日本料理を伝えるものとして、日の丸弁当に入っている梅干しがどれだけ日本人にとって大事な役目を果たしていたのかをお伝えしようと思います。

日の丸弁当と言えば梅干し戦時中の苦難や戦後の混乱期を支え、もっと昔からもお坊さん(禅僧)の食事(点心)や武士の出陣の際の食糧、家庭では常備品として大切に食べ続けてきた食品の一つです。

日の丸弁当とは

四角い弁当箱にご飯と梅干し1個だけを詰めた質素な弁当ですが、そこから日本の国旗を連想させ、愛国心を高めるだけでなく、苦難と欠乏を耐えた日本人の知恵が詰まっています。梅干しは日本人の原点ともいえる食べ物です。

梅は奈良時代に中国から渡来したバラ科サクラ属に分類される落葉小木です。平安時代にはすでにその薬効が説かれていることから、古くから梅干しを大切にしてきたことがわかります。

梅は塩漬けにすると、食品の作用で細胞の原形質分離(植物の細胞がその細胞液よりも浸透圧の高い液に入れられた場合,原形質の収縮が起り,細胞壁と細胞膜で囲まれた細胞質とが離れる現象)が起こって梅の実から浸出液が出ます。

この液が梅酢で、これを「塩梅(えんばい・あんばい)」と呼ばれるようになり、重要な調味料として扱われてきました。

塩漬けにした梅は紫蘇の葉で着色することで、黄色から赤色に変わります。*熟していない青梅は緑色で酸味が強く梅酒などに使われ、梅干しは黄色(または少し赤色も混じった黄色)の完熟梅を使います。

夏の晴れた日には梅酢から一度出して日干しし、再度戻してしばらく置いて、軟らかくなったら梅酢と分けて容器に密封貯蔵して味をならします。

梅干しの強い酸味は主にクエン酸、その他リンゴ酸、フマール酸です。これら有機酸は整腸、食欲増進、殺菌作用に効果があります。日本人はその効果を現代医学で証明される前から体験的に知っていました。

疲れると元気回復に、風邪をひいたら湯に溶いて飲む、食当たりの下痢止め、夏バテ防止、妊婦のツワリに良いです。またこめかみに梅肉を付けて頭痛の特効薬にも使われました。夏など、食べ物が腐りやすい時期には弁当やおむすびに入れ防腐の効果もあるなど、万能薬のような存在です。

梅干しの薬効作用は、梅からの有機酸の他に、種子の核や紫蘇の葉からの香りを伴った薬効成分も鎮咳、解熱、利尿、健胃、発汗、解毒、精神安定などに効果があります。

梅を塩に漬けるだけではなく、紫蘇を加え見た目も美しく、さらに薬効成分も合わせた効果を持つ梅干しを作った日本人の知恵は素晴らしいです。

長期間保存のきく食品で、重宝された梅干しは昔から日本人を守ってきた日本を誇る大切な食品なのです。また梅干しの種の中には、「仁」と呼ばれる核があり、ビタミンB17が豊富に含まれていてガン予防にもなり、鎮痛、消炎、殺菌、整腸作用もあります。

<余談>

子供のころ、家が貧乏で周りの友達が豪華な色とりどりの弁当を持ってきている中、一人だけ日の丸弁当(ご飯と梅干しだけの弁当)で恥ずかしい思いをした方もいるかもしれませんがとんでもない。

日の丸弁当にこそ、日本人の叡智と文化や歴史、そして科学的にも証明された栄養があり、身体を元気にする日本を代表するお弁当です。

この機会に、おかずがたくさん入った豪華なだけの弁当ではなく、シンプルでごまかしのきかない、白飯と梅干しだけの、どんな弁当にも負けない“究極の日の丸弁当”を作ってみてはいかがでしょうか?