日本人は世界にも珍しく無駄が好きな人種と言えます。無駄と言うと語弊がありそうですが、その“無駄”こそが日本人のすごさを物語る特徴の一つなのです。
例えば牛蒡(ゴボウ)が良い例です。ゴボウは日本人だけが食べる根菜です。第二次大戦中、捕虜にごぼうを食べさせたことで、「木の根を食べさせた」と捕虜虐待の罪に問われた人の話もありました。
日本人にとっては、当たり前のように食べていたものだったのに、誤解されてしまった事件です。実は中国では、漢方薬の原料にゴボウが使われていましたが、それを料理として食べるようにしたのは日本人です。もともと、ゴボウも中国から渡来してきた薬物の一つでした。
ゴボウは、繊維素(せんいそ)が主体で、食べても消化せず、胃腸を通過するだけなので栄養源にはならないと言われていましたが、そのゴボウの繊維素は、白米や肉に比べ、20~30倍もの水を吸収して膨張し、腸内を通過する際に腸内を洗浄して、お通じが良くなります。
繊維素は腸に侵入した腐敗菌や異常発酵菌の増殖を抑え、そこでさまざまなビタミンを生合成し、身体はそれを吸収し利用していることもわかったのです。*生合成(せいごうせい)とは生きている細胞内で物質が合成されること
さらに、繊維素は胆汁酸の分泌を多くして、脂肪の分解、コレステロールの過剰を抑えます。つまり栄養価ゼロと言えど、身体にとって役立っているのです。
このようなゴボウのように、日本では栄養的には無駄な食べ物でも、実はスゴイ価値を持った食材が多く、
- 薊(あざみ)の根
- 薇(ぜんまい)
- 蕨(わらび)
- 土筆(つくし)
- 筍(たけのこ)
- 蓮根(れんこん)
- 糸瓜(へちま)
- 萌(もやし)
- 蕗(ふき)
など、いずれもその仲間です。そのなかでも低カロリー食品の代表である蒟蒻(こんにゃく)は主成分が多糖類の一種マンナンで、人はこの成分を消化吸収できません。さらにこのマンナンは水にあうと膨れ上がり、蒟蒻となってからは、97%が水分で、カロリーはほぼゼロです。
そんな性質を利用し、昔から「砂払い」と呼ばれる、腸管の掃除役として重宝されました。昔の人は、よく家の大掃除の後に身体に吸い込んだほこりを出すために蒟蒻を食べさせられたという話を聞きます。
さて、そんな一見無駄と思われる食べ物の中でも最も衝撃的なものがあります。
それは、和紙です。この料理のビックリするところは、栄養など全くない和紙を食べてしまうところです。
作り方は以下
<紙餅の作り方>
- 奉書紙を3日間水につける
- よく叩き潰す
- 葛(くず)を合わせて味噌を入れてこねる
- 適度な大きさに切り味噌汁で煮る
以上です。この紙餅を食べれば、年中病気にならないとも言われています。実際に1764年の『料理珍味集』にも記載されている料理です。
「本当に大丈夫なのか?」と思うかもしれませんが、奉書紙の原料は楮(こうぞ)の繊維です。コウゾはクワ科の植物で、ヒメコウゾとカジノキの雑種。和紙の原料としても使われる植物です。
ネットで画像検索したら、「あぁ、これか!」と思うかもしれません。意外に身近にあります。
実は、日本人はそんな大昔から食物繊維を意識的に取り入れて、腸の刺激による便秘の防止や、腸内細菌のコントロールをしていたのです。便秘の薬や整腸剤が無かった時代の、まさに日本人の知恵です。
またゴボウやレンコン、タケノコなどの繊維素にプラスしてこれらには歯応えも大事にされており、その歯応えを活かす、きんぴらや胡麻和えなどなるべく繊維を傷めない調理法をするのも特徴の一つと言えるでしょう。
そんなもったいない精神からどんな食材でも、料理の材料として確立させてしまう日本料理は、他国から見ても面白いと感じるでしょう。